経営コンサルタント/兵法経営士濱本 克哉
2015-05-02 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
経営コンサルタント/兵法経営士 濱本 克哉

起業家を成功に導く5大要素

 このコラムのポイント

今回のコラムでは起業家に必要な資質の部分に触れられています。フランチャイズの経営者として人材を雇用する上でも知っておくと役立つ内容ですね。自身が経営者としてどのようなビジネスを展開したいのかにもよりますが、今回挙げる5つの要素をバランスよく兼ね備えたいところですね。

フランチャイズWEBリポート編集部


こんにちは、経営コンサルタントの濱本です。
今回は独立して失敗を味わった起業家の方の実例を交え、成功するための5大要素をお話します。

あやうく倒産しかけたBさんの実例

サラリーマン時代、トップセールスだったBさんは、独立してハウスクリーニングの会社を設立しました。

Bさんは直接、人に会って話し込み、仕事を受注するというスタイルで、飛び込み訪問はお手の物です。断られても苦にすることなく、次から次に訪問、一定の確率で仕事をもらいます。

Bさんは「これなら難しくはない。他の人間でもセールスできるだろう」と考え、営業担当として3人を雇いました。ところが思ったように売ることができず、それを機にBさんの会社は資金繰りが悪化。Bさんは3人の営業担当に不満をぶつけました。

対して営業担当者らはBさんの教え方が悪いといい、内部対立に発展。

Bさんが1人で仕事をとってくるものの資金繰りは好転せず、社内の雰囲気は最悪の状態に。
営業の3人は一斉にやめていきました。

あやうく倒産は免れたものの、Bさんは「会社運営って難しい」としみじみ思ったのでした。

「将の五徳」のうち、1つ欠けてもダメ

起業して成功するためには何が必要でしょうか? 

「孫子の兵法」には、軍隊を率いる「将」のあり方についてこうあります。

『将とは、智・信・仁・勇・厳の五つの徳を備えているか否か、というリーダーの資質のことである』

智・信・仁・勇・厳は「将の五徳」と呼ばれるもので、それぞれ

智:先々まで見通したり、臨機応変したりする知恵

信:リーダーへのメンバーからの信頼

仁:メンバーに対する愛の気持ち

勇:強いものに向かっていく勇ましさ

厳:全員を統率するのに必要な厳しさ

このような意味になります。

これらの資質をバランスよく保有していないと将軍は務まりませんよ、と孫子はいうのです。

孫子の時代の将軍は何千、何万の兵隊を引き連れて戦争に向かいました。
自分が実際に戦う場面も多かったようですが、それよりも部隊を指揮するという役割の方が大きいので、リーダーシップがとても大切だったのです。起業家はどうでしょうか。

例えば、ここに2メートルを超える大男と身長120センチの小学1年生がいるとします。
食べるものについて、大男にはもう大きくなったからと野菜ばかりを、子供は育ち盛りだからと肉ばかりを与えてよいでしょうか。そんなことはありません。

栄養が偏ることのないよう、バランスのとれた食事を考慮する必要があります。

先の例は、大男が将軍を、小学生が起業家を表しています。

起業家の場合、自分と家族、そして社員の生活の保障、顧客への商品・サービスの安定的な供給、仕入先への代金の支払いなど、規模は小さくても負う責任まで小さくはありません。

事業主になったということは小隊の隊長に就任したのと同じ。
判断力を磨き上げ、事業運営に致命傷をもたらすようなミスを犯さないようにしなければならないのです。その意味で、

やはり将軍と同じく「将の五徳」を身に付ける必要があります。これは起業家を成功に導く5大要素でもあるのです。

起業時に最重要なのは「智」

ただし、起業時に絶対不可欠なものを1つだけ選べといわれたならば「智」を挙げます。

自分がどうやって売上を確保し、食っていくかということについてのアイデアがまったくなければ、他の四徳があってもどうにもなりません。

先のBさんはこれだけはありました。ハウスクリーニングという事業の市場規模はこれから拡大すると読み、自身の営業力をもってすれば十分に売上を確保できると考えて創業したのです。

もしもあなたが今「独立したい」とお考えならば、Bさんを見習い、環境条件と自分の強みからどんな仕事をするかについて十分に検討すべきです。

仮に興味をもった分野についてノウハウがないとしても、フランチャイズシステムを利用するという手があります。この仕組みのよいところは必要な「智」を売ってくれるところ。自分にない部分を補ってくれるのですから検討の価値ありです。

「孫子の兵法」でも、かなりの部分が「智」に関するものとなっています。将軍にとって、いかに戦略・戦術上のアイデアが重要であるかが分かります。

「仁」「信」がなければ人は定着しない

Bさんの失敗は「仁」と「信」が不十分だったことによるといえるでしょう。組織というのは往々にして内から崩れるものです。

Bさんは「勇」を発揮していきなり3人もの営業担当者を雇いました。

ところが、自分の営業力が普通の人よりも高く、普通の人がどんな点で何をどう苦しむのかよく分からなかったため、ひととおり基本を教えた後は放置したのです。彼には「仁」が足りませんでした。

また、放置された3人はどうすればよいか悩む中で、徐々にBさんへの「信」を失っていったのです。

Bさん自身も営業成績の上がらない3人に対して「ちゃんと働いているのか?」と不信感を抱くようになり、最後には決裂してしまいました。

Bさんと3人の間に明確な報告、連絡、相談に関するルールもなく、「厳」についても欠けていたといえます。

会社をどうしたいのか、明確化しておくこと

こうした失敗を避けるためには、「将の五徳」の重要性について、起業前のうちから十分に認識しておくことです。また、会社の将来ビジョンについて明確化しておくことも欠かせません。

Bさんは行き当たりばったりで人を採用し、失敗しました。

起業が成功し、ひと段落した時点でも遅くないので、会社を拡大したいのか、それとも小粒でもピリリと辛い零細企業でいくのか、また、1つの事業を突き詰めるのか、それとも幹部社員と共に複数の事業
をやりたいのかなど、じっくりと考えてみていただきたいと思います。
そうすれば、あなたの夢にふさわしい人が集まってくるでしょう。

これも「将の五徳」の「智」の範囲内のことです。ぜひ五徳をしっかりと意識して起業に臨むようにしてください。

次回は小さい会社の戦い方について、孫子の「弱者の戦法」をひも解きながら解説します。

経営コンサルタント/兵法経営士 濱本 克哉

ハマモト経営代表。兵法経営士。関西学院大学文学部卒業、大手小売業、学習塾、出版社、経営コンサルタント会社を経て経営コンサルタントとして1997年独立。地方銀行のビジネスセミナー講師、経営者団体での講演実績多数。個別企業のコンサルティングは通算約170社。メールマガジン社長が経営に活かす「孫子の兵法」は読者数17000人。著書「孫子の兵法 社長が経営に活かす70の実務と戦略」(日本経営合理化協会)。