経営コンサルタント/兵法経営士濱本 克哉
2015-05-16 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
経営コンサルタント/兵法経営士 濱本 克哉

計画すべきは「弱者の戦法」

 このコラムのポイント

今回は独立して、自身の顧客ターゲットをどのように定めたらいいのかについてレクチャーします。そのヒントが漢文でも有名な『孫子の兵法』に書いてあるので、その例を紹介しつつ見てもらえればと思います。

フランチャイズWEBリポート編集部


お客は何を考えているか

独立開業!いよいよあなたの長年の夢が現実となるのです。ワクワクするのは当たり前ですが、一方で「果たしてお金は回るのか?」「お客は来るのか?」といった心配で頭はいっぱいでしょう。あなたは、あなた自身のことばかり考えるようになります。

では、お客の側は何を考えるでしょうか。仮に、あなたの店のチラシが新聞折り込みで入ったとしましょう。お客は
「この店は自分の役に立つのか」、「この店に行くことで自分は幸せになれるのか」と考えます。あなたの資金が回ろうが回るまいが知ったことではありません。この段階であなたとお客の思考は分離しています。

分離した状態でうまくいくことがあるとすれば、たまたま、あなたの売りたい商品とお客の買いたい商品が一致していたという場合です。ほとんどのケースはまぐれ当たり。

あなたの思考とお客の思考を近づけなければ、商売成功の確率を高められないのです。

仮にあなたが大金持ちで広告費を際限なくかけられるというのならば、このやり方でもよいかもしれません。しかし、おそらくそうではないでしょう。ここで使うべきなのが「弱者の戦法」です。

得意分野で勝負しよう

よく「顧客目線が重要」と言われます。確かにそのとおりだと私も思います。しかし、いくら顧客目線が大事だからといって、顧客に合わせて不得意なものを商品にしていたら、かえって評判は下がります。

自分の得意なものを商品にすることは、今のような価値観が多様化している時代、鉄則と言ってよいでしょう。あなたの得意なものを欲しがるお客が世の中に存在する可能性は高いのです。

『孫子の兵法』には“弱者の戦法”についてこうあります。

少なくなるのは、相手に合わせて備えをする立場だからだ。多くなるのは、相手をこちらのために備えさせる立場だからだ(虚実篇)

「少ない」「多い」というのは“兵隊の数”のことですが、「余裕」とか「能力」などに置き換えて考えてみましょう。

商品を顧客に合わせようとすると、こちらの力不足が露呈してしまいがち。無理な注文に対して「出来ます!」と言ってしまったら、そこからが大変です。

よく分からない部分を勉強しながら進めることになって効率も悪化。もしも本当に資金繰りに困っているときや、他にまったく仕事がない場合、「苦手でも受ける」という判断もありですが、これを常態化させている企業はいけません。

ある会社の社長いわく、
「いつ仕事が無くなるか分からない。とりあえず来た仕事は全部受けておきたい」とのこと。

こうなると、主導権は相手(顧客)にあります。あなたを生かすも殺すも相手次第。もはやせっかく独立した意味もありません。

これに対して、あなたの得意分野を仕事にした場合はどうでしょう。あなたは商品を生産するにおいて簡単な部分も難しい部分も熟知しています。短時間で極めて完成度の高い商品を量産することも可能です。

追加料金さえもらえれば、顧客に応じてカスタマイズするのもOK。お客はあなたの専門性の高さに感心するばかり。中には「全面的に信頼しているので、すべてお任せします」というお客まで出てきます。

商品についてお客の言いなりになるより、こちらの得意分野を売る方が、効率が良く、しかも喜ばれるのです。

顧客に接近する方法

あなたの得意分野に惹かれたお客だけが寄ってくるようにするには、特長をハッキリと打ち出すことが大切です。
自分の都合で、「できるだけたくさんの人に集まって欲しい」と考えるほどあれもこれもPRしたくなって特長がぼやけてしまい、お客にも役立つかどうかが分かりにくくなります。かえって分離してしまうのです。まずは特長の明確化があなたの思考とお客の思考を近づける重要ポイントです。

しかし、これだけでうまくいくほど世の中は甘くありません。あなたの会社が何に得意なのか知らない人の方がはるかに多いのです。売上を伸ばすには、あなたの方からそういう人たちに近づいていかなければなりません。どうやって近づくか?

普通に考えれば「広告を打つ」となるでしょうが、広告もやみ雲に打ってはダメです。まず、どこにあなたの商品に興味を持っている人たちがいるのか、よく調べてみる必要があります。

例えば、私は地方のあるメガネチェーンのコンサルティングに入った際、人は通常、どんなメガネ店で買おうとするのか調べてみました。そうすると、基本的には家の近所で買う人が多いと分かったのです。
とすれば、メガネ店のお客というのは遠方でなく近所にいることになります。そこで店舗周辺のシェアを調査してみたところ、思ったよりもかなりシェア率が低いことが判明しました。肝心な近隣の顧客が買ってくれていなかったのです。

そのメガネチェーンは新聞折り込み広告で集客していましたが、私はチラシのポスティングを提案しました。

店舗の近隣に案内するということはご近所づきあいと同じです。回覧板に「こんにちは」などと書いて挨拶を済ませる人はいません。やはり実際に足を運ぶのが最もよい方法です。

同社では毎月、社員で分担して近隣の決めた地域を回り、ポスティングして、人に出会ったら挨拶するようにしました。その結果、半年で売上高は昨年対比120%となったのです。

まずは計画書に落とし込む

こうした「弱者の戦法」は、やはり事前に計画してから行う必要があります。経営計画というと数値計画だと思っている人が多いですが、数値の裏付けとなる行動計画が立てられていなければまったく意味がありません。

『孫子の兵法』には

勝利する軍は、開戦前にまず計算上、高確率で勝利を得て、それから戦おうとするが、敗北する軍は、ずさんな計画で戦争を始めてから、行き当たりばったりで勝利を求める(形篇)

とあります。これから開業し、激しい競争社会に飛び込む弱者は、弱者でありながら勝てる計画を立てておかなければなりません。

もちろん、完璧な計画など立てられるものではありませんが、せめて「勝つ確率は6~7割はある」と思える計画を立てていただきたいと思います。経営コンサルタントなどの専門家に見せたときに「よくここまで考えましたね」と褒められたらOKです。

次回は実際に開業してからの戦い方について、「基本は持久戦、拙速は避けよ」と題して解説します。

経営コンサルタント/兵法経営士 濱本 克哉

ハマモト経営代表。兵法経営士。関西学院大学文学部卒業、大手小売業、学習塾、出版社、経営コンサルタント会社を経て経営コンサルタントとして1997年独立。地方銀行のビジネスセミナー講師、経営者団体での講演実績多数。個別企業のコンサルティングは通算約170社。メールマガジン社長が経営に活かす「孫子の兵法」は読者数17000人。著書「孫子の兵法 社長が経営に活かす70の実務と戦略」(日本経営合理化協会)。