フランチャイズ研究会 社会保険労務士・人材育成トレーナー安紗弥香
2015-09-24 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
フランチャイズ研究会 社会保険労務士・人材育成トレーナー 安紗弥香

コンビニのマニュアルはどのように作られているのか

 このコラムのポイント

フランチャイズビジネスにかかせない「マニュアル」。数あるフランチャイズの業態でもこれが特に整っているとされているのがコンビニ業態といわれています。では、このマニュアルはどのように作成されていてどのような内容が掲載されているのか・・といったことがわかるコラムです。

フランチャイズWEBリポート編集部


こんにちは、コンビニ社労士、人材育成トレーナーの安紗弥香です。
隔週コラムの第9回は、「コンビニのマニュアル」について触れていきます。

コンビニのマニュアルとは

フランチャイズビジネスを行う上で大切なものの一つに、「マニュアル」があります。マニュアルは、本部が加盟店に対して提供する業務ノウハウの結集とも言えます。媒体もさまざまで、紙、ネット、CDやDVDなどで加盟店に提供されます。

コンビニエンスストアのマニュアルは、非常にボリュームがあります。業務が多岐に渡る、ということもありますが、一つの業務に対して、誰でも理解と実践ができるよう細やかに記載されている、という側面もあるのです。

マニュアルはどのようにして作られるのか

チェーンによって、方法の細かい部分は違いますが、大筋は、例えば新しいサービスが始まる場合、あるいは新しい機器が登場する場合に、関係各部(例:商品部、システム開発部など)が発表するサービス、機器などの情報を入手し、マニュアルを作成する部署が連携を取りながら作成していきます。マニュアルを作成する部署は、専門部署の他に、営業のサポート部署や、研修を行う部署などが関わる場合もあります。本部で内容が揉まれたあと、印刷やWEB化を関係各部や取引先へ発注します。紙媒体の場合は製本されたあと、各加盟店に直接届けられますし、WEBの場合はストコン(ストアコントローラ、ストアコンピュータなどと呼ばれます)に配信され、店舗で閲覧できるようになります。

ちなみに私が以前、同僚とマニュアルに関わっていた時は、Excelなどで原案を作っていました。文章や写真は関係各部から取り寄せたり、自分で準備、撮影したりして調達。そのデータを取引先のデザイナーさんへ発注し、WEBのマニュアルを作成していただいていました。レジ画面や店舗オペレーション(業務の流れ)が変更になると、約1ヶ月かけて修正・配信をしていきます。マニュアル作成・改訂は、社内外問わず多くの人の手を介して進められていくので、意外と時間と費用がかかるのだな、ということを実感しました。

どのようなマニュアルがあるのか

最もボリュームが多くなるのは、何といっても業務に関するマニュアルです。
挨拶やお辞儀の仕方、言葉遣いなど基本的な接客スキルから、レジ対応、検品、品出し、FF商品の作成、鮮度管理、清掃など、いわゆるコンビニエンスストアならではの業務も満載です。
例えば清掃と一口に言っても実に多くの箇所があります。例を挙げると、入口の上にある最も目立つ電光看板の拭き方もマニュアルの中に組み込まれています。私が本部で加盟店研修のトレーニングに携わっていたとき、オーナーや店長からは、「え、こんなところも清掃するの?!」とか「こんな掃除用具があったの?!」と驚かれたこともあるほどでした。また、最近では環境保全や災害対策(地震などの自然災害)など、店舗運営上知っておかなければならない内容をマニュアル化しているチェーンもあります。

その他には、チェーンによってボリュームや仕様が違うものの、オーナー、店長向けの経営マニュアル、スタッフを育成する際の手引きになるマニュアルも用意されています。経営マニュアルでは、決算書類の見方や社会保険についての内容、就業規則の例文、福利厚生情報を確認することができます。また、育成のマニュアルでは、トレーナーとしての心構えに始まり、業務の教え方のポイント、所要時間の目安などが掲載されています。これらを上手に活用することにより、スタッフがスタッフを教える仕組みにもつながり、店舗運営力の強化の礎を作ることができます。
コンビニエンスストアの業務は多岐に渡りますが、年齢やそれまでの経験を問わず、スタッフが一定のスキルを身につけられるよう、こうしたマニュアルが完備されているのです。

マニュアルの課題

しかしながら、マニュアルは万能ではありません。マニュアルを重視しすぎるがあまり、お客さまに目を向けず機械的な接客応対をしてしまう危険性もはらんでいます。「マニュアル接客」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。「いらっしゃいませー」「ありがとうございましたー」などと、一定のトーンで、どんなときでも同じような対応をすること、常連でポイントカードを持っていないお客さまにも「ポイントカードはお持ちでしょうか?」と毎回聞くなど、「個客対応」をしない店舗も存在するのが実情です。個客対応とは、個々のお客さまの特徴や傾向を生かした対応をいいます。例えば、毎日タバコを買われるお客さまの銘柄を覚えて、レジでお客さまが注文する前に出す(あるいは「タバコ」といえば、いつも買われるものが出せる)という対応はまさに個客対応といえます。

コンビニエンスストアが人々の間で認知されるようになってしばらくはマニュアル重視でもよかったのですが、近年はチェーン数も多くなり、また、どこのコンビニエンスストアもサービスの差がなくなったことで、「個客対応」ができるかどうかが選ばれる条件になることもあります。

株式会社ジャパンネット銀行が2015年2月に調査した「コンビニエンスストアの利用と支払いに関する調査」の「コンビニ選びのポイント」の中では、商品やサービス内容のほかに「店内の雰囲気の良さ(全体19.4% 男性15.5%、女性25.7%)」「接客の良さ(全体16.6% 男性16.2%、女性17.3%)」が挙げられています。

特に雰囲気の良さや接客については、男性よりも女性のほうが重視している結果が出ています。女性のお客さまも増え、口コミの影響力は男性のそれよりも大きくなることが多いことから、実際に女性客の喜ぶサービス(例:トイレに化粧直し用のアメニティグッズを置く、など)を企画・実施し、口コミを上手く活かして新規のお客さまやリピーターを増やしている店舗もあります。

しかし、コンビニエンスストアはチェーンストアです。個客を大切にしつつも、そのベースは、長年の経験が蓄積されてきたマニュアルの内容でなければなりません。マニュアルの内容を理解し実践しながら、いかにお客さまの特徴を早く確実に捉え、それを生かした対応ができるかが、今後も生き残っていくための重要ポイントになっていくといえます。

最後に

さて、ここまで、コンビニマニュアルに焦点を当てて見てきましたが、いかがだったでしょうか。

次回第10回は、「人材」にフォーカスします。採用難と言われて久しいコンビニ業界ですが、加盟店だけでなく本部もその問題を大きく捉え、様々な対策を取り始めています。また、育成についても、本部と加盟店で協力して進めていたり、加盟店の取り組みが功を奏したり…と、コンビニエンスストアのスタッフをめぐる問題や成功事例も多く存在します。

採用と採用後の育成には、どのようなポイントが必要なのでしょうか…。
ということで、お楽しみに!

フランチャイズ研究会 社会保険労務士・人材育成トレーナー 安紗弥香

ディズニーで5年間、最高の接客と人材育成を経験した後、CVSチェーン本部へ転職。7年間、4,000人超の社員、加盟オーナーの研修に携わる。その中で、店舗の職場環境向上と労務管理支援に活路を見出し、2012年、社会保険労務士登録、翌年独立。労務管理、採用支援、スタッフ育成研修と幅広いサポートには定評がある。著書に「Q&Aでわかる 小売業店舗経営の極意と労務管理・人材育成・事業承継」(日本法令)がある。