株式会社PEOPLE&PLACE 代表取締役松下 雅憲
2016-05-08 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
株式会社PEOPLE&PLACE 代表取締役 松下 雅憲

繁盛店≠周辺人口が多い!自店の業態にマッチしたポテンシャル調査とは?

 このコラムのポイント

新店舗を開業し成功するために必須な商圏分析。人口が多ければ繁盛店になる!という考え方は実は危ないということ・・ご存知でしたか?エリアマーケティングに明るい経営コンサルタント、松下雅憲氏がこの根拠について解説します。店舗の形態によって、重視すべき通行量が変わるのでそのあたりに注目しながら読み進めましょう。

フランチャイズWEBリポート編集部


新店舗出店時にこれは失敗する!と声を大にして言いたい「動線」のこと

「このあたりは住民人口が非常に多いのでこの物件は絶対に大きな売上が取れますよ」

ある若い店舗開発担当者が、私の所に地図と商圏データを持ってやってきました。そして、目を輝かせながら新しい店舗案件の説明をし始めたのでした。

彼は、私がコンサルティングをしているあるチェーン店の店舗開発を担当しています。私はこの会社の新規出店について、その可否判断をサポートしているのです。

彼が持って来た案件は、私がコンサルティングをしている会社の新店舗候補です。
彼は、「店舗周辺には、他の自社既存店に比べて人口や駅乗降客が多いので、この案件の売上は間違いなく高くなる!だからここに新しい店を出店しましょう!」と熱弁を振るってくれました。

確かに、彼が提示したその案件のデータリストには、周辺500mの住民人口も、駅乗降客数も比較検討した既存店のデータよりも大きい数字が書かれていました。
普通に考えれば、この案件は「出店可」と判断されるでしょう。

しかし、その案件が表示された地図を見た私は、「これはダメだ」と思ったのです。

その理由は・・・

「この案件は、周辺ポテンシャルは豊富だが、残念ながら直前ポテンシャルが厳しいはずだ。だからそんなには売れない・・・」

私は、この案件の店舗周辺には豊富に潜在顧客はいるものの、その人達は案件前を通らないと思ったのです。
人は、駅や商業施設などのトラフィックジェネレーター(交通などの要衝)からフォーカルポイント(人が一番集中する交差点など)を通って次のトラフィックジェネレーターや自宅や勤め先に移動します。
これを「動線」と言います。

地図を見ると、その動きはある程度想像がつきます。
まだ降りたことのない駅でも、まだ行ったことの無い街でも、詳細な地図を見れば、おおよその人の流れはわかります。Googleのストリートビューを見ればさらに詳しくわかります。

スイーツ持ち帰り店から見る「機会来店」が多い店舗が繁盛するために重要な要素

今回の案件で彼が考えている業態は、カジュアルなスイーツのテイクアウト業態です。
これは、目的来店よりも機会来店の方が強みを発揮しやすい業態です。

そう言う店が繁盛するには、「周辺ポテンシャル」もさることながら「直前ポテンシャル」が重要な要素になります。

「直前ポテンシャル」とは、「店舗前通行量」のことです。
車の交通量については、国土交通省のホームページを見れば、交通センサスの調査地点については調べることが出来ます。

しかし、人の通行量については、「GIS(地理情報システム)」や「市役所のホームページ」などでも調べることが出来ません。

この数字は、現地で自分たちが自ら調べないと把握することは出来ないのです。
彼は、周辺ポテンシャルのデータに惑わされて、現場をしっかりとは調査していないようでした。

マクドナルドも重視していたポテンシャルデータの計測方法に必要な「数取り器」

彼らのトレーニングも私の重要なミッションです。私は、若い店舗開発担当者を連れて、その案件の場所に出かけました。

そして、彼に、「自社の業態が繁盛する為に必要な要素」を理解してもらうために、店舗前通行量の計測を指示しました。

彼は、30分間、自社のメインターゲットである20代~30代の女性と全通行者数を「数取り器」で計測しました。

ちなみに、マクドナルドでは、出店調査部のスタッフが、朝8時から夜20時までカチカチカチカチと、案件に向かって歩いている通行人の数をひたすら数えています。そのデータを売上予測に使っているのです。

彼らは、より精度の高い売上予測をするために、この直前ポテンシャルデータの計測に特に力を入れています。

目的来店客と機会来店客。それぞれのねらい方を理解せよ

さて、通行量を計測し終わったあと、私は彼をつれて別の店へと向かいました。その店は、今回の案件に「周辺ポテンシャル」や「駅乗降客」が似ている自社の既存店です。

彼が、新規案件の売上を推測するためのベンチマークとして選んだ店です。

私は、彼にその店の前の通行者数を案件の時と同様に計測をさせたのです。30分後、計測を終えた彼は私に言いました。

「店舗前の通行者数が全然違います・・・」

私は彼に、案件と商圏データが似ている既存店の通行量を比較することにより、一見数値上で似ている様に見えても、実はそこに見過ごしがちな罠があることに気づいて欲しかったのです。

周辺ポテンシャルについては、GIS(地理情報システム)などで簡単に知ることが出来ます。しかし、直前ポテンシャルは、実際に計測しないとわからないのです。

新規案件の売上を予測するには、まずは、自分達の店が、目的来店客(あらかじめこの店に行こうと決めたお客様)が多いのか、それとも機会来店客(たまたま見つけたので入店したお客様)が多いのかをお客様にアンケートを採って知っておく必要があります。

目的来店客の来店数は、周辺ポテンシャルが多いと増える可能性が高くなります。
機会来店客の来店数は、直前ポテンシャルが多いと増える可能性が高くなります。

これらの関係をよく理解しないで、新規案件の売上を予測してしまうと、目的機会の割合によっては、大きな予測違いを起こしてしまうことになります。

さて、あなたはいかがですか?
新しいお店を出そうとするときに、目的来店と機会来店を踏まえて2種類のポテンシャルを基に売上を予測していますか?

数字を見ているようで、その見方を間違うと、大変なことになりますよ。

株式会社PEOPLE&PLACE 代表取締役 松下 雅憲

大阪出身。1980年日本マクドナルド(株)入社。店舗運営の現場と全社の出店戦略に関わり、2005年4月とんかつ新宿さぼてんを運営する(株)グリーンハウスフーズに入社。すぐに経営情報室を立ち上げ、経営情報の見える化、出店戦略システムの構築、さらにエリアマーケティングをベースにした店長教育システムを導入し大きな成果を上げた。2012年4月株式会社PEOPLE&PLACEを設立。代表取締役に就任。マクドナルドとさぼてんで確立したノウハウを独自の形に仕組み化した「店長ナビ®」を提供し、人材育成を通じて多くの外食企業や小売・サービス企業の業績向上に貢献している。