フランチャイズ研究会 中小企業診断士楊典子
2016-11-29 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
フランチャイズ研究会 中小企業診断士 楊典子

事業計画は本当に必要? 〜目標に向かう航路を描く「事業計画書」〜

 このコラムのポイント

事業計画書とはなにか?事業を立ち上げようとした時、資金面や人の協力が必要な場合は、他者に自分がどのようなビジネスを始めようとしているのかを理解し賛同してもらう必要があります。今回のコラムでは、事業計画書はどんなものなのか「具体的にとういう時に役立つのか」について知ることができます。

フランチャイズWEBリポート編集部


こんにちは!女性のローリスク起業を支援する「一般社団法人キャリア35」理事、楊典子です。

今回は創業の相談を受けるときによく質問される「事業計画書って本当に必要?」という疑問に、お答えしたいと思います。

事業計画書は、目標に向かう「航路図」

相談を受けていて感じるのは「事業計画書は必要そうだとは分かっている、けれど 使い道が分からない方が多い」ということです。

事業計画書の大本の役割は、船旅に例えるなら「航路図」。これからの事業の計画を"見える形に"数値や言葉で示すことで、お金や人といった経営資源が不足しないか、計画にヌケモレや修正点がないかを確認しながら、目標地点に向かって実際に計画を進めていく、その土台の資料となります。

しかし、実際、経営を始める前に立てる売上見込みや経費の見込みは、大きくずれるのが当たり前。蓋を開ければ、売上は3割減、経費は4割増といったことはよくある話しです。

この「どうせ今書いたって、その数字は当てにならないでしょ」という気持ちが、事業計画書の筆を重くしているのも確かでしょう。

でも、事業計画書には実際に経営をしながら確認していく「航路図」としての役割の他に、沢山の役割があるのです。

これから起業される皆さんなら、必ず一度は事業計画書をつくっておいてよかったと思う場面に出会うことになります。
自分にとっての事業計画書の使い道を見つけてみましょう。

事業計画書を作る目的を明確にしよう!

起業をする際に事業計画書が活きる場面は、大きく次のように分けられます。

【創業時の事業計画書の使い道】

1. 融資申込み
2. 手続きの円滑化(店舗契約、口座開設など)
3. 取引先開拓(仕入先、販売先、事業パートナー)
4. 従業員募集
5. 販促資料の基礎資料(会社案内、チラシ、HPなど)
6. 補助金申請のベースづくり

.融資申込み

融資を受けるなら、金融機関からもらう定型の創業計画書では不十分です。ここは必ず想いを込めた事業計画書を作成して添付するようにしましょう。

熱意がある、しっかりと事業を成功させるためのプランが練り込まれていると認めてもらえると、希望融資額で貸してもらえるだけでなく、金利も低く設定してもらえることもあります。

2.手続きの円滑化

この数年、創業者が金融機関での口座開設は本当に難しくなっています。

事業を本格的に開始する前に、「ちゃんと事業をやっていますよ」と証明することは至難の業。ここで示せる限られた証拠のひとつが事業計画書です。「取引が始まりそうだけど、口座がない」なんてことがないように、事前に事業計画書を作成、持参して望みましょう。

3.取引先開拓

仕入先や得意先を開拓するにあたって、自社がどのような事業を行う事業者かを説明する必要があります。口頭で上手に説明して、その場で即決というケースもあるでしょうが、やはり説明は資料を使って進めた方が話しやすく、先方の印象にも残りやすくなります。

また、社内で検討するとなった際にも、紙があった方が社内検討しやすいものです。

.従業員募集

正社員やアルバイトを募集する際に、事業計画書を示しながら話しをすることで、自社の理念や方針に賛同してくれる人材を集めやすくなります。

この辺りを示さずに、単に給与や時給といった勤務条件だけで集めてしまうと、運営時に「自分の指示が通らない」と苦労するケースが多々あります。

自社の考え方に賛同してくれる人をふるいにかけるためにも、事業計画書は役に立ちます。 

5.販促資料の基礎資料

チラシやホームページを業者に委託して作ってもらうにしても、そこに盛りこむべき自社の思いや特長は、こちらから文章として提供する必要があります。

チラシ用に考える、ホームページ用に考える、とすると、いつしか整合性がなくなったり、考えるのが面倒で他のサイトの文言を真似したり、ということも起こりがちになります。

自社の考え方の根幹として「事業計画書」を作っておけば、都度考える手間もなくなりますし、整合性もとりやすくなります。

6.補助金申請のベースづくり

創業時には国や地方自治体が公募する補助金や助成金に申し込むチャンスがいくつもあります。その際には、必ず申請書を作成することが求められますが、記載項目の多くは事業計画書に盛りこまれている内容とかぶります。

補助金の公募期間は1ヶ月などと短いことが多いため、公募が始まってから作り始めるとなると、なかなか合格ラインの資料まで仕上げるのが困難です。事業計画書があれば、それをベースに書類を作成できますので、申請書類作成の手間は1/3ほどに軽減されます。

チャンスをしっかり掴むためにも、事業計画書をあらかじめ作成しておきましょう。

事業計画書に盛りこむべき内容

事業計画書に盛りこむ内容は様々なパターンがありますが、まずは基本として下記の項目は抑えて欲しいところです。

  • この事業を行うに至った背景(プロフィール、経緯)
  • 経営理念 (自分がこの事業をやる意義)
  • 基本方針/経営姿勢(お客様や商品等に対しどのような姿勢で関わるのか)
  • 行動指針(当社で働く人が実践すべき行動例:笑顔で対応します、など)
  • 当社商品/サービスの特長(競合との違い)
  • ビジョン(当社の5年後はどのような状況になっていたいのか)
  • 5カ年事業計画(ビジョンを数字で示すとどのように推移するのか)
  • 経営戦略(その数字を達成するために、何に取り組んでいくのか)

上手な文章でなくても構いません。箇条書きでも十分です。

まずは自分の頭の中にあるものを整理するつもりで、見える形に落としてみましょう!

 

フランチャイズ研究会 中小企業診断士 楊典子

福島県出身、立教大学経済学部経済学科卒。新卒から一貫して経営コンサルティング業務に従事し、外資系コンサルティングファーム等を経て独立。五葉コンサルティング株式会社代表取締役。世界的企業から個人の創業まで、多数の支援実績を持つ。製造業の業務改革や各種FC本部構築などに関わる。主な著書にフランチャイズ入門(同友館)、フランチャイズ本部構築ガイブック(同友館)、好きを仕事に!―私らしいローリスク起業(BKC出版)など。