株式会社PEOPLE&PLACE 代表取締役松下 雅憲
2016-12-04 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
株式会社PEOPLE&PLACE 代表取締役 松下 雅憲

最初のオリエンテーションが肝心!新人を辞めさせない魔法の言葉

 このコラムのポイント

雇っては消えていくスタッフに頭を抱える経営者が、昨今ますます増えてきています。今回のコラムでは、大手ファストフードチェーンで店長を歴任した筆者がその経験から紡ぎ出した「スタッフの不満を経営者自らの耳に届けさせる環境の作り方」について知ることができます。

フランチャイズWEBリポート編集部


新人さん初日のオリエンテーションで

「このお店で仕事をして行く中で、何かわからないことや困ったことがあって、先輩達に尋ねても解決できなかったときは、必ず私のところに来て下さい。疑問だけではなく、不満でもかまいません。あなたが納得出来るまで私はあなたの話を聴きます。必要ならば説明をします。だから、必ず来て下さいね。お願いします」

これは、私が、大阪ミナミの繁華街のあるマクドナルドで店長をしていたときに、新人バイトの初日のオリエンテーションの最後に、必ず言っていた言葉です。

これは、当時の私の店長としての想いを、一番現していた言葉でした。

私がこだわっていた「疑問や不満は店長に言って欲しい」という姿勢を現しているこの言葉。
実は、店長としての過去の苦い経験から来るものでした。

店長時代の苦い経験

私は、福岡博多の店で始めて店長に昇格してから、店長として最後の店(上記の大阪の繁華街の店)まで通算6店舗で店長をしてきました。

その中で、店長として一番辛かったことは、せっかく相思相愛で採用した新人スタッフが、卒業や引越などのやむを得ない事情以外の理由で、アルバイトを辞めてしまった時のことです。

特に「なぜ辞めてしまったのかわからない」「いつの間にか来なくなってしまった」そんな辞め方をしてしまったスタッフの事を想うと、本当に悲しく、申し訳ない気持ちになるのです。

彼ら彼女らを思いとどまらせるような改善が出来なかったこと、そもそも「辞めたい」「辛い」気持ちになっていることに気がつかなかったこと… 店長として情けない限りでした。

店長が果たすべき仕事

店長は、スタッフが「楽しく」「元気に」そして「成長する」ための環境を作ることが最大の仕事です。

しかし、そうやって辞めてしまうスタッフの多くは「悲しく」「辛く」「面白くない」ことが原因で仕事を辞めてしまいます。

その主な原因は、店長、社員、そして仲間や先輩とのコミュニケーションのギャップなのです。そして、そのギャップの発生を店長がいち早くつかんでいなかったことで、悲しい辞め方をしてしまっているのです。

その時の私の気持ちは「なぜ、もっと早くそのギャップをつかめなかったんだろう」という後悔の念でいっぱいでした。しかし、残念ながら、当時の私は、悩んでいるスタッフの本音を引き出すことが出来ませんでした。

優秀な店長は、悩んでいるスタッフは様子を見ればすぐにピンと来ます。そして「聴く」というスキルを使ってスタッフの本音を引き出せます。

しかし、私には、「観察力」も「傾聴力」もありませんでした。

だから、「悩んだりわからなくなったりしたら、店長の所に言ってきて欲しい」と素直にお願いをするしかないな、と思ったのです。いや、そうせざるを得なかったのです。

声かけから生まれた「思わぬ好循環」

そんなわけで、私は、新人スタッフへの仕事始めのオリエンテーションの最後に必ずこの言葉を言うようにし始めました。この行動は、自分でもビックリするほど大きな効果がありました。

その店では、40名しかいなかったスタッフをたった2ヶ月で120名にしたのですが、その後の半年間で退職したスタッフは、1名に留めることが出来たのです。

もちろん、その間、何度も何度もチーム内のコミュニケーションギャップは生まれました。しかし、その度に、新人達は私のところに来てくれたので、早め早めに対応し、問題点の改善をすることができたのです。

トレーナーや社員達も私の気持ちや姿勢を理解してくれていたので、「今日の新人達は何か言っていませんでしたか?」と、自分達が発生させているかも知れないコミュニケーションギャップについて、いつも関心を持つようにもなりました。 

スタッフの思いを汲める環境づくり

私たちは、本質的には、相手の気持ちを完全に理解することは出来ません。
出来るのは「理解しようと努力すること」です。

コミュニケーションギャップは「相手の気持ちがわかる」なんておこがましいことを考えるから起きるのです。

私たちには相手の気持ちは「わからない」のです。だから「聴く」しかないのです。でも、こちらが「聴く」前にスタッフが落ち込んでしまったら、救い上げることがかなり難しくなります。

だから、自ら言えるような空気・雰囲気・環境を作るのです。

私が出来たのは、それだけでしたが、それでも大きな効果はありました。

もしもあなたが、スタッフの早期退職やチーム内のコミュニケーションギャップに悩んでいるのなら、一度素直に、私のように言ってみて下さい。

「わからなくなったらなんでも店長に聴いて下さい」とね。

 

次回は、「「ありがとう」を習慣にすれば従業員満足度は必ず高まる」と言うテーマでお話しします。お楽しみに!

  • 参考「『これからもあなたと働きたい』と言われる店長がしているシンプルな習慣」松下雅憲著(同文舘出版)

株式会社PEOPLE&PLACE 代表取締役 松下 雅憲

大阪出身。1980年日本マクドナルド(株)入社。店舗運営の現場と全社の出店戦略に関わり、2005年4月とんかつ新宿さぼてんを運営する(株)グリーンハウスフーズに入社。すぐに経営情報室を立ち上げ、経営情報の見える化、出店戦略システムの構築、さらにエリアマーケティングをベースにした店長教育システムを導入し大きな成果を上げた。2012年4月株式会社PEOPLE&PLACEを設立。代表取締役に就任。マクドナルドとさぼてんで確立したノウハウを独自の形に仕組み化した「店長ナビ®」を提供し、人材育成を通じて多くの外食企業や小売・サービス企業の業績向上に貢献している。