株式会社エムズ 代表取締役的羽 一郎
2017-01-17 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
株式会社エムズ 代表取締役 的羽 一郎

飲食業の労働生産性を向上させるための方法

 このコラムのポイント

労働生産性とは、従業員一人当たりが働いて生み出す「付加価値額」を示す指標とされ、投入した労働量に対してどのくらいの生産量が得られたかを表します。昨今、日本の外食・中食産業の品質レベルは、日本食ばかりでなく、一般的で大衆的な飲食店が世界的に注目を集めるほど確実に向上しています。それにも関わらず、なぜ業界の労働生産性は上がらないのか。今回のコラムでは、その根本とも言える「日本特有の理由」に触れながら、その状況下でも利益率を高めていくための方法を知ることができます。

フランチャイズWEBリポート編集部


日本の労働生産性が低いということが、たびたび話題に上ります。アメリカの労働生産性を100とした場合、日本のそれは60強、宿泊や飲食に至ってはさらに指数を引き下げています。

これでは、なかなか所得も増えませんし、労働環境の改善も進みません。将来の夢も描きにくく、人が集まらない業種になってしまいます。
もちろん、宿泊や飲食の中にも、労働生産性の高い会社はいくつもあります。

今回は、飲食店の労働生産性向上について考えてみます。

労働生産性が低くなる原因

同じ商品を高く売れば、労働生産性は向上しますし、安く売れば労働生産性は低下します。店が1件しかなければ、少々高くともお客様は来てくれますが、競合店がひしめいていれば、ライバルより価格を安くせざるを得ません。

今の日本は少子高齢化や老後の不安といった 将来を悲観させるような言葉がにぎわっており、消費を控えて貯蓄へ向かっているようです。

その状態でも売上を作る必要から、低価格競争へと向かっています。

本当は、もっと高く売りたいが、値段を上げてしまうと売れなくなってしまう。だから値段を上げられない。

消費税が引き上げられたとき、商店街全店が価格を引き上げられれば問題がないのですが、価格を据え置く店が出てきます。すると、同じように価格を据え置く店が出てきてしまいます。結局、自分で自分の首を絞めているのです。

付加価値で 労働生産性が上がらない理由

アメリカは、付加価値を高めることで値段が高くても売れる方法を模索しました。
飲食店でも、サービスに対して適正な対価を求めます。 

ところが 日本では、サービスを増やしても価格を上げずに、サービスを競争の手段にしています。するとお客様は、店を選ぶときに、よりサービスのいい店を選んでしまいます。

さらに、サービス競争が加速して、おもてなしへと進化していきます。

高級旅館のようなバカ丁寧な接客をする居酒屋があったり、必要以上にテーブルに足を運び御用聞きのようなことをする店もあります。

一つのお皿に盛り付ければいいものを、いくつもの食器に盛り付けていたりします。

確かに見た目はいいですが、盛り付けの手間もかかりますし、洗い物も増えます。お皿が欠けたりする頻度も増え、経費の増加にもつながっているのです。

よいサービスをするには、手間もかかりますし、おもてなしとなると従業員教育も大変です。
特に、飲食店を含む「サービス業」では、アルバイトやパート従業員に店舗運営を依存しています。

彼らは、卒業や主人の転勤などの理由で、いつまでも働くことができず、絶えず人員の入れ替わりが起こっています。その状態で、サービスレベルを維持していくのは大変な作業です。

過剰なことをアルバイトやパートに求めれば、彼らは、もっと効率のいい仕事を求めていきます。今、外食は極端な求人難ですが、働き手がいないのでなく、他の業界に働き手を奪われているのです。

快適なサービスは、お客様にとってはいいですが、これでは、業界全体が疲弊してしまいます。 

仕事の省力化で、労働生産性を上げる

過剰なサービスをしても、価格を上げられないのなら、上手に手を抜かなければなりません。

まず、手間を省くことを考えます。次に代替品を考えます。

例えば、職人さんが包丁で綺麗に切っていた野菜を、アルバイトがピーラーで切ったとします。多少見栄えに差が出るかもしれませんが、高級料亭でない限り、問題は無いと思います。

代替品を考える場合、カット野菜でも問題ないでしょう。むしろ、カット野菜の方が、一年中価格が安定していいかもしれません。

野菜の中でも、カットが簡単なものと手間がかかるものがあります。野菜サラダを作る場合、レタスを中心にするのと、大根を中心にするのでは、手間の違いは歴然です。

調理器具の見直しも大事です。
内装や看板、あるいは広告費等は、効果が見えやすいので投資の対象として考えやすいです。
一方で、人の作業を省力化するために作業機械導入するという方法も考えられますが、実際には作業人員を何人も減らせることは稀です。確実に作業時間は減っているのですが、導入前と導入後の作業時間の検証を正確につかんでいない店がほとんどです。

仕事の内容を見直して、労働生産性を上げる

アルバイトは、通常、ピークが始まる前に出勤してきます。出勤してきて、すぐにバリバリ働いているかというと、たいていの場合、ピークが始まるまではゆっくりと構えています。しかし、店長はというと、その間も仕込みやらで忙しく働いているのです。

店長は、一日の仕事の流れが見えているのに対し、アルバイトは見えていません。見えていたとしても、教えてもらっていないために、手伝うことができないのです。

これでは、労働生産性が上がらないのも当然です。

時間の使い方を見える化するスケジュール管理、仕事のやり方が誰でもわかるマニュアルやレシピの活用、これらが非常に重要になってくるのです。

とは言え、個人事業者が上に挙げたようことを、日々の多忙の中で作成したり使いこなしたりするのは大変です。

自分で見直す自信がない方は、これらをうまく活用しているフランチャイズを活用するのも一つの手かもしれません。 

株式会社エムズ 代表取締役 的羽 一郎

大手外食産業で17年間勤務。沖縄から仙台まで約280店舗の直営店・フランチャイズ店の新規開業に従事。出店戦略の策定から立地調査、新業態開発、不振店の再生、フランチャイズ・オーナーへの経営指導、社員活性化教育など多くのスキルを身に付ける。 2003年に経営コンサルタントとして独立後は、外食産業やサービス業の経営指導を行う傍ら、商業施設の企画、フランチャイズのパッケージ構築、講演等幅広い分野で活躍している。