株式会社経営教育研究所 FCアナリスト・コンサルタント今野篤
2017-05-10 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
株式会社経営教育研究所 FCアナリスト・コンサルタント 今野篤

フランチャイズ加盟者も、立派な「いち経営者」という覚悟で

 このコラムのポイント

連載コラム「フランチャイズの成功とは」最終の第4話。今回のコラムでは、加盟オーナーが自身が、本部への依存意識を捨て、一経営者として自社を経営していくことの大切さを解きます。SVとの関係を自社の経営や人材育成に深く紐付け、FC本部との連動とその効果を最大化する方法について知ることができます。

フランチャイズWEBリポート編集部


経営に必要なのは、二系統の人材育成術

スーパーバイザーをしている頃、現場に出るとよくオーナーから、「いい人いない?」「部下が育たない」と投げかけられた。特に経営がうまくいっていないところほど、返答に窮屈した記憶がある。と言うのも、このような店舗には、経営に必要不可欠なある部分が欠けていることが多かった。それは「人」を育てることである。

不況に強いと言われるFCだが、それはフランチャイザー(FC本部)からの見解に過ぎない。確かにFCは成長市場かもしれないが、その一方で、多くの離脱者がいることを忘れてはならない。これは、どのFCだろうがどの業界も、同じ傾向だ。厳しい状況下こそ、組織が一致団結し、一枚岩になることが、業績向上のための必須条件だろう。そのための人材育成は、避けて通れない道である。

FCには、二系統の人材育成が必要だと考える。ひとつは、フランチャイジー(加盟者)自ら、自社の経営理念やミッションを社員と共感すること。もうひとつは、フランチャイザーから、サービスやノウハウを学べる場をつくること。このふたつをどのように構築していけばよいか、本部も加盟者もぜひ考えて欲しい。

自社の経営理念・経営方針を、社員やSVと共有する「研修のススメ」

FCに加盟し、社員研修までFC本部のおんぶに抱っこというわけにはいかないが、勘違いされているオーナーの方もいる。本部は、FCのサービスやノウハウを提供してくれるのであり、自社の社員は、自ら育てなければならない。これはFCだろうが、どの業界の企業も同じである。まず、社員には経営理念から植えつけたいところだが、経営理念がないFCも多く見受けられる。経営理念は企業の魂ですよ!その次は、自社の進むべき方向性を示した経営方針(ミッション)を、社員と共有したい。船長がしっかりと方角を定めなければ、船は迷走するばかり。経営理念と経営方針は、是非、スーパーバイザー(SV)とも共有したい

FCの理念は忘れずに語りたい。現場に立つ店長は、理念を通して行動できているか。話はそれるが、私はクルマが好きでよくディーラーにお邪魔する。しかし、残念なことに売ることしか頭になく、クルマに対する愛情が希薄な営業マンと遭遇することが、よくある。私は、絶対にこのような営業マンから、クルマを買いたくない。話を戻そう。同じようなことが、店舗現場でもあるのではないだろうか。商品に対する想いが希薄で、営業に走る店長。これでは、顧客から共感を得ることは、到底できないだろう。

理念こそ起業したトップでなければ、伝え切ることは難しい。優良と言われるFCチェーン本部には、トップから加盟者や社員に理念を語る場がある。同様に優良FC店舗は、オーナーや店長から、店の従業員に理念を伝える場がある。 

いよいよFC(技)の出番。本部のノウハウをSVを介して自社にうまく取り込む方策

人と同じように心を磨き、足腰を鍛えたならば、いよいよ技の出番である。そう、ここでこそ、FCのサービスやノウハウを使うのだ。本部の研修会もよいが、SVに教室に出向いてもらい、自社用にチューンアップされた研修をしてもらうのが、一番効果的だ。

ここで本部やSVにお願いがある。直営で培ったノウハウをきちんとFCに伝導するためにも、本社内のFCと直営部門のライン強化を図って欲しい。このようなライン作りができている本部は、加盟者に対して、様々な研修会を開催したり、タイムリーに情報提供ができている。

FCオーナーが絶えず気にしているのが、直営や優良店舗で今どんなことをしているのか、そしてその成功のノウハウなのだ。直営とFCのラインが強いFC本部は、直営店舗とFC店舗における両者の業績は均衡している。しかし、直営≫FCの図式の本部があり、FC格差を産んでいる。

くれぐれも、心や足腰が未熟な内に、技ばかり身に付けようとしないこと。そうならないためにも、自社で社員を鍛えることを怠ってはならない。フランチャイジーも立派な独立した一企業である。自社の社員は、自社で育成するのだ。

「加盟者が本部を支えている」という意識を持つことが大切

本部は常日頃から、営業開発スタッフとSVが連携を取れるように努めて欲しい。開発からの引き継ぎや申し送りがないと、SVにバトンタッチがうまくいかず、結果、加盟者に迷惑がかかることになる。本部は猛省して欲しい。

また加盟者がよく失敗するケースとして、過度の本部への依存が挙げられる。本部は社長ではなくパートナーだ。社長は加盟者オーナーあなた自身なのだ。事業展開こそFC本部主導でなく、加盟者自らがイニシアチブを取り、進めなければならない。そこには経営戦略やマーケティングのエッセンスも必要だが、何より重要なのが一経営者として本部に依存しない覚悟ではないだろうか。

「文句を言っているようではだめ。所詮、一店舗単体では巨大な本部を動かすことはできない。しかし、店舗が大きくなることで本部も大きくなり、結局その恩恵は必ず店舗に返ってくる」

以前取材でお会いした加盟者のひと言だ。学歴もなく腕一本で生き抜いてきた彼の言葉に、頷けずにはいられなかった。FC本部が彼を育て、彼がFC本部を育てていることは間違いない。

編集部より

フランチャイズビジネスの成功は、依存や受け身では叶いません。経営に必要な情報が常に新鮮な状態で集まるように仕向けられるのは、その店のオーナーになった加盟者自身だということを忘れてはいけません。

株式会社経営教育研究所 FCアナリスト・コンサルタント 今野篤

株式会社経営教育研究所 代表取締役。FCアナリスト・コンサルタント。経営学修士。 旅行代理店、学習塾FC、ベンチャーを経て独立。専門は教育とサービスFC。 スーパーバイザー(SV)経験を活かし、FC本部の構築やSV育成を行う。 著書「フランチャイズ」「塾・予備校(協力)」。毎年「フランチャイズ・ハンドブック」発刊。