融資や助成金・認可・税務にも影響!自社の「事業目的」を決定する際の重要ポイント

原川 健 |2017年06月23日 公開 (2018年03月26日 最終更新)
自社の『事業目的』を決定する際の重要ポイントを考える経営者イメージ

シリーズ形式でお伝えしている会社設立時に押さえておくべき重要ポイント。

前回の「会社名のポイント」「本店所在地のポイント」はいかがでしたでしょうか?本店所在地を決定するにあたっても相当なポイントがございますね。 前回に引き続き、「事業目的」を決める上でのポイントについてお伝えいたします。

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事業目的の決め方の原則

適法性

強行法規に違反する内容(大麻の輸入販売、煙草の製造販売など)や、公序良俗に反する内容を事業目的にすることはできません。また、弁護士・税理士など、一定の国家資格者でないとできない事業も、事業目的にすることはできません。また、個々の事業は適法であっても、兼業することが禁止されている事業を組み合わせて事業目的にすることもできません。

営利性

株式会社は営利法人ですので、営利性の無い事業や、ボランティア活動を事業目的にすることはできません。

具体性

会社の事業目的は、誰が見てもその事業の具体的な内容が分かるものでなければなりません。

ただしこの要件は、新会社法施行後、非常に運用が緩やかになっています。現在では、例えば「その他商業全般」などというあまり具体性がない事業目的であっても認められています。

事業目的はできるだけたくさん入れた方が有利?

事業目的は「できるだけたくさん入れておいた方が有利だ。」と聞いたことがあるいう方が、結構多くいらっしゃいます。

・やりたいと思ったときに、どんな事業でもできる。
・事業の範囲を広く取っておけば、税務上、経費を落としやすい。

というのがよく聞く理由ですが、これは一概に正しいとは言えません。

・コンピューターソフトウェアの開発および販売
・コンピューター関連機器の販売
・中華料理店の経営
・不動産投資顧問業
・エステティックサロンの経営
・貸金業
・探偵業
・陶芸教室の経営
・前各号に附帯関連する一切の事業

例えば、上記のようなこんな事業目的の会社と取引したいと思いますか?

とりあえずやる事業は、ソフトウェアの開発だけと聞いていても、ちょっと、センスやモラルを疑ってしまいます。

「この会社は、儲かれば何でもいいのかな?」
「この会社の強みやノウハウはどこにあるんだろう?」
「すぐに他の事業に目移りして、続かないのでは?」

って思ってしまいませんか?

取引先や金融機関のイメージも変わってくる?

あまり関連性のない事業を多く入れてしまうと、取引先や金融機関に、説明するのが大変です。 短期的に行う予定がない事業は、入れないほうが無難です。入れる場合でも、実際に行う事業と関連性の高いもの、上記の例でいけば「コンピューター関連機器の販売」程度にとどめた方がよいと思います。

イメージがよろしくない業種が事業目的に入っていることにより、大手企業と販売代理店の契約が締結してもらえない、外注先として登録してもらえない、行政の入札に参加できない、などの事例もでてきています。 新会社法では、類似商号の規制がなくなりましたので、事業目的を追加するのが、非常に簡単になりました。事業目的を追加するのは、何ら難しいことではありませんので、実際に事業を行う段階になって、追加するようにしましょう。

また、税務上事業目的を広く取ったから、経費の範囲が広がるということはありません。税務上は、事業との関連性があるものしか経費にはなりませんが、事業目的にないものであっても、新事業の準備として支出した経費については、経費にしても問題ありません。

許認可業種に注意!

行政の許認可が必要になる事業を行う場合には、会社設立後に許認可が取得できるように、事業目的の表現に気を使う必要があります。定款認証や登記申請の際には、事業目的の表現として認められても、許認可を受ける際に認められなくて、再度、事業目的の変更が必要となってしまうケースが少なくありません。

下記のような事例が生じているようです。 許認可に関する事業を営む会社を設立する場合、充分に注意してください。

・介護事業所を開設するため、会社を設立したが、事業目的が認可基準に適合しないため、再度、事業目的変更の登記が必要になった事例

・個人事業からの法人成立で、会社を設立したが、登記した事業目的では、会社が必要としている建設業の許可が得られないので、再度、事業目的変更の登記が必要になった事例

・人材派遣業を営むため、会社を設立したが、事業目的が認可基準に適合しないため、再度、事業目的変更の登記が必要になった事例

金融機関の融資に注意!

銀行等の金融機関で融資を受ける場合、許認可が必要な業種を営む、またはこれから営む場合、必要な許認可を取得していなければ、原則的に、金融機関から融資を受けることはできません。

・違法な状態で事業を行っている会社を金融機関として、資金支援するべきではないこと

・違法な状態にあるので、いつ営業を停止させられ、金融機関として貸付金が回収できなくなるかわからないこと

違法な状態を知りながら事業を行う経営者はモラルが低く、貸し倒れになる可能性が高いこと。などが理由です。

事業融資のイメージ

したがって、近々に行わない事業で、許認可等が必要なものについては、事業目的に入れないほうが無難です。

「ついでに、中古パソコンでも売ろうかな?」などと、「古物商」を事業目的に入れていたことにより、融資相談の際に、許認可の有無を確認され、結局「古物商」を事業目的から削除することにより、融資が実行されたというケースもあります。

下記が、許認可等が必要な業種の例です。

事業目的を決める際には、許認可等が必要な事業かどうかを事前に確認しておいてください。

許認可等が必要な業種の例

建設業、電気工事業、宅地建物取引業、不動産業、古物商、飲食店・喫茶店営業、菓子製造業、食肉・魚介類の販売、薬局、クリーニング業、旅館業、理容・美容業、建築物清掃業、産業廃棄物処理業、酒類販売、貴宝製品・毛皮製品販売、風俗営業、質屋、古物商、深夜喫茶店、警備業、労働者派遺事業、貸金業、旅行業など

また、不動産業、貸金業、質屋業、有価証券の売買業、風俗営業、農業などは、金融機関の融資判断が、他の一般業種と異なります。

言い換えますと、事業目的に入っていることにより、融資されにくくなる可能性がありますので、近々に行う予定がない場合には、事業目的から外しておく方が無難です。

税務届出上の業種で有利不利はでない

・「うちは小売と飲食をやっているけど、小売業で税務署に届け出ているので、税務調査に入られにくいんだ。」
・「何業で税務署に届け出るか、よく考えた方がいいよ。」

こんな声もたまに聞くことがありますが、実はあまり関係ありません。

例えば、税務署は毎年重点的に税務調査を行う業種を決めているなど、税務調査の対象になりやすいかどうかは、業種によって多少は異なります。しかし、規模や利益にもよりますが、どの業種の会社でも、3年に一度程度、定期的に税務調査が行われます。合法的にきっちりと節税を行い、適切に申告を行っていれば、恐れることはありません。

消費税の簡易課税なども、業種によってみなし仕入率が異なりますが、これも事業の実際の売上構成で判断され、届け出た業種で判断されるものではありません。

あくまで実際に行っている事業の実際の売上の割合で判断されるものです。

税務への届け出イメージ

助成金などにも注意!

助成金等を受ける場合なども、その助成金等の支給要件に、業種の要件がある場合があります。

特定の業種が事業目的に入っている場合には、助成金の対象にならなくなってしまうこともありますので、助成金の申請が予定されている場合は、設立時に事業目的をよくチェックする必要があります。また、ソフトウェアや文具など、特定業種の健康保険組合に加入する予定がある場合、その業種の事業目的を明確に定めておく必要があります。

事業目的を決定する前に、このような事業目的で加入が可能かどうか、健康保険組合に確認しておいた方がよいと思います。

事業目的は追加・変更できる

いろいろ書きましたが、実は事業目的はいつでも追加・変更が可能です。

新会社法では、類似商号の規制がなくなりましたので、事業目的を追加するのが、非常に簡単になりました。よって、取引上の信用を考えて、その事業を行うことが具体的になった時点で、事業目的を追加するという方法がベターだと思います。

そもそも定款に事業目的を定めるのは、「お金を出資した株主が、あらかじめ定めた事業目的の範囲内で、役員に経営を委任する。」という趣旨からです。

同族会社は、「株主=役員」である場合がほとんどですので、事業目的を追加したり変更したりするのに、何の制約もなく自由に行えます。

しかし、外部の方の出資が入っている会社については、事情が異なります。

事業目的の変更は、定款を変更することになり、会社法上、特別決議(3分の2以上の同意)が必要になります。簡単に変更することはできませんし、お金を出資してもらい事業を行っていますので、安易に変更すべきではありません。

事前に出資者の方と、事業構想をよく話し合って、事業目的を決めるようにしてください。

方向性を考えて事業目的を見直す

フランチャイズに加盟してオーナーになると、他に活躍しているオーナーと同じように看板を背負った経営者として事業を展開していくことになります。加盟検討される際は、本部が展開している加盟金や収支モデルといったブランドの情報だけではなく、本部の持つ考え方やフランチャイズとしてサービスを展開する目的などもチェックされることでしょう。

フランチャイズの中にはデイサービス等の高齢者向け施設や保育園等、許認可型のビジネスもあります。また、初期投資に必要な資金を準備する際は銀行や政策金融公庫などの融資機関からの融資を受ける方も多いです。ご自身がこの先どのように事業を進めていきたいのか、本コラムを参考に”事業目的”をもう一度見直してみてください。

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