フランチャイズ加盟開発で役立つ法務がわかる
行政書士川本到
2014-10-14 FC本部向け小説
行政書士 川本到

開発担当は占い師??~売り上げ予測の合理性~

 このコラムのポイント

フランチャイズ本部の資料などでも出てくる「収益モデル」。これはあくまでも一例のモデルです、などの記述がしてあるように、あくまでも売上の予測を示したものです。では、売上予測とは具体的にどのように定義されているのか?、本部は何を以てこの数字を資料などに用いているのか?。収益モデルを見るときに参考にしたい話です。

フランチャイズWEBリポート編集部


 夏真っ盛り。外に出るのも嫌なくらい暑い今年の夏。カノジョの真樹はオーストラリアから帰ってきて暇らしく、毎晩俺の家に来ては「まーくん、どこか遊びに行こうよー」と言うけれど、ぶっちゃけ、それどころではない。毎日クタクタだ。

 

 いつも通り契約書作りなどに勤しんでいたある日の午後、店舗開発部長の畠山部長が珍しく法務のデスクにやってきた。

 ぶっちゃけ、店舗開発の人たちは法務のことが大キライだ。わたるさんのことを「鬼」と呼んでいるのを俺は知っている。

何でかと言えば、彼らが持ってくる契約書に真っ赤に指摘事項を書き入れて
「こんな契約書じゃハンコ押せないよ」と言って戻すのがわたるさんの仕事だからである。

店舗開発の人たちは、何の指摘もなくハンコを押せれば、大家さんとの交渉がなくて一番楽なのだから、わたるさんが「鬼」に見えるのも当然かもしれない。

まぁ、普段から鬼畜というか、悪魔というか・・・だけど。

 

「わたるちゃん、ちょっと相談事があるんだけど、いいかな?」
畠山部長は猫なで声だ。きっと何か契約のことで頼みごとがあるんだろうなぁ(笑)。

「いいですよ。酒井も一緒にいいですか?」


俺?俺は無理っす。なんて言えるわけなく、一緒にミーティングスペースに連れて行かれた。

 

「実はねぇ、店舗開発部で売上予測システムの構築をしているのは知ってると思うんだけど、これがなかなか上手くいかないんだよ。一応、過去の300店以上の実績から、重回帰分析とかを取り入れて、いろいろなエレメントの相関関係を数式化してみたんだけど、これが、さっぱり当たらんのだよ。」

 

ジューカイキブンセキ??

何じゃそれ?

 

「でも、コレが早く実戦投入しろって聞かなくてさぁ…。」
と畠山部長は親指を立てた。社長のことである。「親分」ってことだろう。

 

畠山部長のお悩み相談はつづく。

「だけどさ、このまま加盟希望者に『当社の売上予測では、月間1200万程度は売れるという予測です』とか言って、外れてみ。それだけで強烈なクレームの嵐だよ。下手すりゃ裁判ってこともあり得るでしょ?俺、まだ裁判所の証言台に立つ自信なんてないぜ。」

 

まだ証言台に立つ自信ないって、あんたは何時になったらその自信つくの?と聞いてやりたかったが、部長相手にそんなツッコミなしだよな(笑)

 

「なーに言っちゃってるんですか。心臓に毛の生えた男って言われる畠山さんが。裁判なんてどうってことないですから!」

とわたるさんが答えたら

「お前、冗談にもほどがあるぞっ!!」

と畠山部長の顔がマジになった。

 

やべー、わたるさん、怒らせた?
そんなのへっちゃらなわたるさん。

「いや、正直な話、売上予測なんて当たりませんから。当たるシステム開発できたら、それだけでコンサル屋できますよ。俺なら、そのシステムだけで独立しちゃいますよ。
どうせ当たらないんだから、テキトーにやっとけばいいんですよ。社長の趣味みたいなもんでしょ、それ。」

「お前、よくもまぁ、そんなことが言えるな。」
ため息混じりに畠山部長が言った。元気がない。

わたるさーん、そりゃちょっと冷たいんじゃないですか?と思わず俺でも言いたくなってしまった。

 

「酒井、お前、よくこんな奴上司に持って平気な顔してられるな?」
と畠山部長は俺の顔を見た。

 

賛成!!その意見大賛成。平気じゃないっす。毎日胃が痛いっす。

 

と、わたるさんが突然俺に振った。

「酒井、お前にこの前、フランチャイズ・ガイドライン渡したな?読んだか?」

「え、あっ、ハイ、読みました。」

「そこに売上予測について書いてあっただろ?何て書いてあった?」

 

出た!!無茶振り!!ムリですって、そんなの覚えてるわけないですから…(焦)。

 

「すみません、覚えてません。」

「バカヤロー。覚えてませんじゃねぇよ。覚えとけ。」
と軽く怒られた。そして、わたるさん、畠山部長の方を向くと

「ご存知だと思いますが、フランチャイズ・ガイドラインってのがありまして、その中では『予想売上げ又は予想収益の額を提示する場合、その額の算定根拠又は算定方法が合理性を欠くものでないか。
また、実際には達成できない額又は達成困難である額を予想額として示していないか。』という点を判断基準とすることになってます。これが最大のヒントですね。」

 

わたるさんは謎かけのようなことを言う。

 

「だからさぁ、その『達成できない額』やら『達成困難である額』やらを提示しちゃったらアウトなわけだろ?」
うん、畠山部長のご意見ごもっとも!!

 

行政書士 川本到

外食系上場企業の法務担当、有名飲食チェーンの法務担当者、法務部門責任者などを経験し、2008年4月に行政書士登録。行政書士川本法務事務所を設立。主に、フランチャイズに関する法務コンサルティング、海外進出支援を中心とした業務を行っている。所属は、神奈川県行政書士会、中小企業診断士協会東京支部フランチャイズ研究会、国際取引フォーラムなど。日本経済新聞社主催のフランチャイズ・ショーや福岡県新生活産業多店舗化事業でセミナー講師、「フランチャイズ本部構築ガイドブック」(同友館)や「FCチェーンの海外展開ハンドブック(フランチャイズ研究会)にて著作の実績あり。