【取材】フランチャイズは人々を幸せにするのだろうか。

フランチャイズという流通用語、ましてや外来語とも言えるフランチャイズという言葉と”しあわせ”という抽象的な哲学めいた概念が一つのタイトル内にあるとどうも据わりが悪くなります。

しかし、さきほど出席してきたフランチャイズのセミナーを聞き終え、社に戻ってくるとどうしてもこの二つが関係性 をもって意識されてしまい、タイトルとして落ち着いてしまいました。 弊社自身がフランチャイズの加盟募集サイトを運営しておきながら、今更ですが、フランチャイズは果たして人々を幸福に導くのかどうかは永年の私自身の命題 です。

こんな幸せとかって言葉を持ち出すと、社内からは宗教っぽいからやめてくれと言われますが、そもそもこの幸福とい う単語は日本国憲法第13条、幸福追求権として憲法に保証された国民の権利なのですから、宗教とだけ関係しているのではないし、立派な憲法用語じゃんと言 い訳しておりますが、確かに宗教っぽいことばではあります。

さて、「フランチャイズは人々を幸せにするのだろうか。」社内ではちょっと引かれ気味のタイトルであろうと分かっ ていながらも敢えて掲示し、ここで少し考察してみたいと思わせてくれる契機となったのは(株)ベンチャー・リンク主催のセミナーでした。 タイトルは、 ”誰も知らない「規制緩和」がもたらすビジネスチャンスの掴み方” 講師は代表取締役会長の小林忠嗣氏でした。新規にビジネスを考えている方々にとってはグッとくるタイトルではないでしょうか。なんと言っても、前半部分の ”規制緩和がもたらすビジネスチャンス”は今多くの日本国民が認識している現実ですし、その事例は嫌と言うほどニュースの形でも流れてきているのですか ら、それの掴み方となるともうダメです。 起業家は間違いなく飛びつきます。ぜひ教えて下さいと言いたくなります。 実にうまいネーミングだなと思ってしまいました。

実際のセミナーはわが国における規制緩和の事例の数々の紹介から始まりました。一覧で説明されることで、実にさま ざまな分野で起きていることが分かりました。この一つ一つを説明していたらとても時間が足りないとのことでしたが、もっともなことでしょう。 その中で一つの例として、小林氏が説明に使ったのは規制緩和を利用し飛躍的な業績アップを成し遂げた(株)光通信の話でした。同社の急速な成長は出席者の 中で知らない方はいらっしゃらないでしょうし、規制緩和を利用し、しかも同時に(株)ベンチャー・リンクの事業の中心であるフランチャイズシステムを利用 しての成長だったわけですから、事例としてあげるには最適の企業だったのではないでしょうか。説明を聞き終え、改めて光通信がいかにすごい伸びを示した会 社だったのかが分かりました。 もちろん小林氏の話は、実例としての同社の説明だけではありませんでした。タイトルにもある”「規制緩和」がもたらすビジネスチャンスの掴み方”の看板に 偽りなく、実に分かりやすい分析とノウハウの説明が付加されていたのは言うまでもありません。

次に話は、規制緩和の中でももっとも市場性豊かな保険業界の話へと移っていきました。もっとも注目すべき分野とし て保険業界が取り上げられたわけですが、その切り口から同社の展開する保険ビジネスの話になったときには、こちらはあまり予期していなかったことなので一 瞬アレッとほんの一瞬ですが、立ち止まって頭を整理する必要が出てきました。筆者が迂闊だったのかもしれませんが、あまりそのような展開は想像していな かったのです。一般論としての”規制緩和がもたらすビジネスチャンス”として聞き入っていたものですから、一瞬たじろいでしまいました。 同社が新規事業として立ち上げた「ライフサロン」というチェーンの紹介が始まりました。

このチェーンは一言で言うと「来店型保険ショップ」ということになるようです。従来のような単なる保険代理店では なく、どこか一社の保険商品を販売するのではなく、複数の保険会社の商品の中からお客に最適な保険商品の情報を提供することを目的としたショップだという ことです。これはお客の側から見ると便利なことには間違いありません。従来は、いわゆる訪問型ですし、訪問販売員が携えているパンフレットは自社のものし かありません。そのため、気に入った商品を選ぶためにはお客は何社もの保険販売員の訪問を受けなければなりません。その煩雑さを解消し、なおかつお客から の立場で商品を選択できるようにし、その他付加価値を高めたのが「ライフサロン」ということになるようです。 ショップの詳細は同社のHP等をご覧いただくとして、話の展開としては実にスムーズな流れです。規制緩和の話があり、実際の過去の成功例が紹介され、保険 市場のボリュームの大きさが説明された上での、新チェーンの紹介です。もちろん、この新チェーンこそが規制緩和があったからこそ誕生したものであり、だか らこそ大いなる魅力を秘めたフランチャイズパッケージであるという一連の流れです。

今回のセミナーを聞き終えた後、筆者の心にもっとも印象深く残り、「フランチャイズは人々を幸せにするのだろうか。」というタイトルを付ける契機となったのが、小林氏の示した次のような例でした。

― ある家族が、子供二人を祖父母に預け夫婦で旅行に行ったのだが、不幸にもその旅行先の事故で二人ともが同時に 亡くなってしまった。このようなケースの場合、もし両親が何らかの保険に入っており、その受取人を二人の子供に設定していたとしても、現状では受取人であ る二人の子供が保険会社に請求をかけないかぎり保険を受け取ることはできない。

率直にかわいそうです。ご両親の無念を想像してしまいました。こういう事例は実際数多くあるとのことでしたが、保 険業界の事情を知らない筆者にもその通りだろうなと想像できます。 ところが、前述の「ライフサロン」の業務内容の一つに「保険バンク」というサービスがあります。これを利用すると、今回のようなケースでは、亡きご両親の 意志に従って、ライフサロンが責任をもって二人のお子さんに保険金を届けてくれるのです。このサービスに加入していれば。両親の事故は悲しいことですけれ ど、彼らの思いや願いの一部は遺児たちに届き、叶えられるということになります。

さて、冒頭のテーマに戻ります。この時点で「フランチャイズは人々を幸せにする。」と言えると思います。 同社の推進する「ライフサロン」は、フランチャイズパッケージとしては魅力的なものに思えます。営業スタイルとして地域密着型ですし、市場としても、もと もとがとんでもなく広い上に、解放されたばかりですから、競争相手もあまりいません。そして商品そのものに独自性があります。小林氏が幾度となくブルー オーシャンであると力説していたことが首肯されます。 フランチャイズ展開は容易でしょうし、その結果、明日の日本からは孤児となってしまった子らに保険金が支払われない不幸はフランチャイズの展開スピードと ともに減少していくことになるのでしょう。

しかし、筆者にはどうも素直に、「あー良かった、このサービスのおかげで、残された子どもたちにご両親のご意志が 伝わるのだ」とは喜べないのです。 ひっかかるもの、それは、外部システムにそこまで依存してしまって良いのだろうかという警戒心です。本来、保険の存在を伝えるべきは、孫を預かっていた祖 父母だろうし、あるいは隣近所の方々ではないのかという内部的相互扶助に対する憧憬の念です。

数年前に出版され、社会学的な観点からフランチャイズを論じた「マクドナルド化する社会」という書籍があります。 著者のジョージ・リッツアは、合理化に突き進む現代社会の行く末を案じ、マックス・ウェーバーの鉄の檻を憂えながらも、マクドナルド化を不可避的な力とと らえています。合理化出現の様をブローニュの森の売春婦になぞらえているくらいですから、リッツアのフランチャイズシステムに対する考えは本を開き直すま でもありません。 そして、それから約10年。リッツアの案じたとおり、マクドナルド化は着実に進行していますし、リッツア自身もあまり想像しなかった別の次元からも現れて いるようです。

ITの急速な発展です。IT高度化の中で人々はよりシステムへの依存を強めているようです。友達のバースディパー ティで撮った写真、水道工事の見積書、著作権違反のハッキングビデオ等々が自分たちのPCではなく、グーグルやその他の有力企業ののサーバーに収容され、 そこでは巨大な情報の一元管理が行われています。しかし、人々は管理される不都合さ情報一元化の危険性よりも利用の際の快適性、利便性の方向に価値のベク トルを向けているようです。 システムにわが身を委ねるか、システムの枠の外に活動の拠点を置くかは個人の価値判断です。しかし、リッツアもマクドナルド化の中で再三述べているよう に、地球という閉じられた世界にあっては、枠の外自体が減少しているので、ひとたび飛び出したとしてもそこはまたたく間にマクドナルド化されていくので す。良いとか悪いとかではなくどうしようもなくそこへ人類は突き進んで行っているようです。そして、それは不可逆性の進行なのです。

フランチャイズシステムのもっとも豊かな成功例としてコンビニエンスストアがあります。コンビニは恐らくフラン チャイズシステムを利用しなければ、ここまで日本の津々浦々まで展開できてはいなかったでしょう。利用者の大半はコンビニは自分のライフスタイルを豊かに してくれると考えていると思われます。そうでない方ももちろんいると思われます。しかし、もうその存在はインフラに近いものであると言っていいでしょう。 鉄道や電気、ガスラインと同じわが国の資産とも呼べる状態です。最近はセーフティネットという名称でJFAの提言により困ったときの駆け込みスペースとし て防犯的役割も果たしています。これなどは言ってみれば交番代わりです。 悔しいけれど、悲しいけれど、地域共同体や家族制度そのものが崩壊しかけている現代にあっては、犯罪者から身を守ってくれるのは隣人ではなく、24時間あ かりのともったCVSであり、幼い保険金受取人に確実に保険金を届けることができるのは、親しくしていた近所のおばさんではないのかも知れません。人はシ ステムに身を委ね、システムに守ってもらうよりないのかも知れません。

核兵器は本当に人々を幸せにするのだろうか…。
医学は本当に人々を幸せにするのだろうか…。
民主主義は本当に人々を幸せにするのだろうか…。
お金は本当に人々を幸せにするのだろうか… 。

これらの質問に全て否と答えてアーミッシュ的社会に入っていくほどの勇気は筆者にはないというのが今のところの答えです。 フランチャイズは人々を幸せにもするし、不幸にもするのだと思います。

世界はよりいっそう外部/内部という境界が難しくなってきており、望むと望まざるとに関わらず、地球を一個の内部ととらえ、その中で地域や家族を再構成する必要に迫られているようです。

ベンチャーリンクセミナー

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■東京会場セミナーの様子。演台に立つのは株式会社ベンチャー・リンク 小林忠嗣 取締役会長
写真提供:株式会社ベンチャー・リンク