連載 本部資料から見るデキル本部の見つけ方

第1回 「モデル収支」からデキル本部を読み取ろう!

1. モデル収支とは?

加盟希望者がフランチャイズ加盟を検討した場合、まず加盟セミナー等、本部が実施する説明会に参加します。本部の説明会では、加盟説明のパンフレットが渡されますが、多くの加盟説明パンフレットには、下記のような収支のモデルが掲載されています。

モデル収支
加盟資料などに記載されているモデル収支

このようなモデル収支が示しているのは、当該フランチャイズの店舗における、標準的な売上高と、その売上高に対する経費の一般的な比率です。上記のモデル収支でいうと、食材経費は売上高の30%程度、人件費は売上高の25%程度といった具合です。

2. モデル収支と売上予測・収支予測の違い

では、加盟希望者としては、当該フランチャイズ事業を始めた場合、モデル収支の売上高が得られると考えても良いのでしょうか。答えはNOです。なぜなら、モデル収支はあくまでもモデルであり、「売上予測」とは異なるものだからです。

「売上予測」とは通常、「新規出店に際し、周辺の立地条件、競合状況、店舗与件(駐車台数、店舗面積等)などのデータに基づいて実現可能な売上高を予測計算すること」と定義されています(社団法人日本フランチャイズチェーン協会 編集・企画『フランチャイズハンドブック』326頁)。すなわち、売上予測は、特定の物件の立地条件、競合店の状況、店舗与件(駐車台数、店舗面積等)等を調査して、当該物件において将来どの位の売上高が上がるのかを予測した、当該物件固有の資料です。

これに対し、モデル収支は特定の物件を調査して作成したものではなく、当該フランチャイズの一般的な資料に過ぎないのです。
加盟希望者は、加盟説明パンフレットに記載されているモデル収支を見て、「自分もこのフランチャイズに加盟すれば、モデル収支の売上、利益が上がる」と軽信しないように注意が必要です。

3. モデル収支を見るときの注意点

モデル収支は当該フランチャイズの一般的な収支ですが、加盟希望者が加盟を検討するための重要な資料ですので、本部としては客観的、合理的根拠に基づいて作成する必要があります。
では、加盟希望者は、モデル収支が客観的、合理的根拠に基づいて作成されているかについて、どのような点に注意して確認すればいいのでしょうか。

■売上高について

先ず、モデル収支に表記された「売上高」については、その数字がどのような根拠で算出されたか確認してください。通常、売上高には、当該フランチャイズチェーンの全店舗の平均売上等、当該フランチャイズの標準的な売上高が記載されていますが、本部の中には、優良店の売上高をモデル収支に用い、あたかも全ての店舗において優良店並みの売上が上がるかのような表記をしている場合があります。

■仕入原価について

次に、食材費等の仕入原価については、本部が計算上算出した理論原価なのか、それとも、実際の店舗業務で発生するロス分を含む実際原価なのかを確認してください。通常、理論原価より実際原価の方が高くなるので、モデル収支に理論原価が書かれている場合には、実際の店舗経営ではより多くの仕入原価が発生する可能性があります。

■人件費について

また、人件費については、オーナー人件費(店長人件費)が含まれているかを確認してください。モデル収支に記載されている人件費がアルバイトの人件費のみで、オーナー人件費が含まれていない場合、オーナーは自身の生活費を営業利益から捻出しなければなりません。

以上のように、加盟希望者としては、モデル収支を漠然と見るのではなく、モデル収支に記載された数値がどのような客観的根拠に基づいて算出されているのか、本部担当者に確認し、良く理解して加盟を検討するようにすることが大切です。

4. その他のポイント

モデル収支は当該フランチャイズの一般的な収支ですので、加盟店毎に異なる事情は記載されていないことが一般です。
例えば、加盟店が店舗の什器備品について設備リースを組んだ場合、毎月のリース料の支払が発生しますが、モデル収支にはリース料という経費項目は記載されていないことが一般です。加盟店が開業に際して事業資金を借り入れた場合に発生する毎月の返済資金についても同様です。
加盟希望者は、モデル収支に記載されている以外の経費負担がないかについても、予め充分検討しておく必要があります。

井嶋 倫子(弁護士)

弁護士法人心斎橋パートナーズ社員。チェーンビジネス法務を専門とし、FCチェーン・レギュラーチェーンの法律相談、訴訟を手掛ける。東京弁護士会所属。(社)中小企業診断協会東京支部フランチャイズ研究会特別会員。特定非営利活動法人 日本フードコーディネーター協会正会員。