フランチャイズ研究会 弁護士神田孝
2011-04-01 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
フランチャイズ研究会 弁護士 神田孝

「法定開示書面」からデキル本部を読み取ろう!

 このコラムのポイント

フランチャイズ契約をするときに、本部と交わす「法定開示書面」。法律関係というと難しさを感じる方もいるかもしれませんが、中小企業庁から発行されているパンフレットにわかりやすく解説されているのでそちらを参考にするといいでしょう。ここでは、法定開示書面を見た時にチェックしたい項目やコツがまとめられています。フランチャイズ契約をする前の方におすすめのコラムです。

フランチャイズWEBリポート編集部


1. 法定開示書面とは?

加盟希望者としては契約締結前にフランチャイズ契約を十分理解しなければなりませんが、フランチャイズ契約書は長文な上に難解で、契約書だけを一読してもなかなか意味を理解できません。そこで、中小小売商業振興法(以下、「小振法」といいます)は、中小小売商業者を相手に営まれるチェーン事業(フランチャイズ・チェーン、ボランタリー・チェーンなど)を「特定連鎖化事業」と呼び、特定連鎖化事業を行う者は、加盟希望者に対して契約内容の重要事項について記載した書面を契約締結前に交付して説明することを義務付けました(小振法11条)。

ここで加盟希望者に交付される書面が「法定開示書面(情報開示書面)」です。本部が法定開示書面を用いた事前開示を行わなかった場合、主務大臣(具体的には経済産業省中小企業庁)は、その特定連鎖化事業者に対して、小振法に従った事前開示を行うように勧告することができるとともに、もし勧告に従わない場合は、社名等を公表することができます(小振法12条)。

このように、法定開示書面は本部にとって必須の資料です。小振法は小売業、飲食業のみを対象としていますが、最近はサービスフランチャイズにおいても多くのチェーンで法定開示書面が用意されています。加盟を検討したチェーンに法定開示書面が用意されていなかったならば、加盟希望者としては、そのチェーンのコンプライアンス及び管理体制に疑問を呈すべきでしょう。また、法定開示書面はあるものの、その改訂が長年なされていない本部も、チェーンの管理体制に疑問が残ります。

2. 法定開示書面を読み取る際のよい資料があります

では、法定開示書面の記載内容から、その本部の能力や将来性を読み取ることはできるでしょうか。

法定開示書面の開示項目は、

  1. 加盟に際し徴収する加盟金、保証金その他の金銭に関する事項
  2. 加盟者に対する商品の販売条件に関する事項
  3. 経営の指導に関する事項
  4. 使用させる商標、商号その他の表示に関する事項
  5. 契約の期間並びに契約の更新及び解除に関する事項
  6. 前各号に掲げるもののほか、経済産業省令で定める事項

の6個で(小振法11条1項)(6)については中小小売商業振興法施行規則10条と11条にて詳細に定められています。

これらの条文は複雑なのでなかなか理解は困難ですが、中小企業庁から発行されているパンフレット(「フランチャイズ事業を始めるにあたって」)では、法定開示書面の開示項目が分かりやすくまとめられているので、加盟希望者としては必読です。このパンフレットには法定開示書面を読むときのポイントが列挙されているので、本部から法定開示書面を受け取った時は、パンフレットで指摘されたポイントに注目して読んでください。


フランチャイズ事業を始めるにあたって フランチャイズ事業を始めるにあたって(PDF)

3. 同業他社の法定開示書面も参考にしよう

最近の法定開示書面では、その内容をより分かりやすく充実させることで契約締結後のトラブルを減らす努力がなされています。例えば、開業前研修のスケジュール、商品の配送頻度、スーパーバイザーによる臨店指導の内容など、実際の開業や店舗運営上の重要点について契約書よりも詳しく記載する本部もあります。コンビニエンス・ストアにおいては、法定開示書面の末尾に別紙を付けて、ロイヤルティ(チャージ)の算定方法や会計制度(オープンアカウント)を図入りで説明する本部が増えてきました。

加盟希望者としては疑問点があれば、すぐに本部の加盟開発担当者に対して質問してください。本部の担当者が明確に答えられなかった場合、そのチェーンでは従業員教育が十分できていない可能性があります。従業員教育が不十分の場合、その担当者の提示した資料や数字(例えば収支予測)の正確性にも疑問が残ります。

また、そのチェーンの法定開示書面を読む際には同業他社の法定開示書面も参考になります。この点、経済産業省商務情報政策局流通政策課と日本フランチャイズチェーン協会が運営する「ザ・フランチャイズ」というWebサイトの「本部の概要(情報開示書面)」には、わが国の主だったフランチャイズ・チェーンの法定開示書面が掲載されているので、加盟希望者としては必ず参照してください。

ザ・フランチャイズ
ザ・フランチャイズ

このように、法定開示書面は当該チェーンのコンプライアンスや管理体制を判断する上で重要な資料となります。チェーンビジネスの魅力は、ビジネスモデル、ブランド力、商品開発、将来性、スケールメリットなどが重要ですが、加盟希望者としては、ビジネスとしての魅力だけでなく、チェーンのコンプライアンスや管理体制を総合的に考慮して加盟の是非を判断してください。

フランチャイズ研究会 弁護士 神田孝

弁護士法人心斎橋パートナーズ代表社員。チェーンビジネス法務を専門とし、FCチェーン・レギュラーチェーンの顧問を多く務める。大阪弁護士会所属。(社)中小企業診断協会東京支部フランチャイズ研究会特別会員。(社)日本フランチャイズチェーン協会専任講師。