株式会社フォーナレッジ 代表取締役加藤 綱義
2016-07-08 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
株式会社フォーナレッジ 代表取締役 加藤 綱義

フランチャイズを活用したM&A後の事業再生方法

 このコラムのポイント

ジー・コミュニケーション時代に数多くのM&Aを行ってきた加藤氏。自社の傘下に加わった事業の再生と改善にも携わってこられた経験から、フランチャイズシステムを活用した事業再生方法を解説いただきます。

フランチャイズWEBリポート編集部


過去のM&A具体例

前回のコラムでは、ジーコム(株式会社ジー・コミュニケーション)のフランチャイズビジネスの成り立ちに触れ、そのことがM&Aで傘下に加わった事業の再生及び業績の改善に大きく関わっていくと書いたところで結びました。

ここでは、ジーコムのM&Aを具体的に説明したいと思います。

ジーコムの初めてのM&Aは、東京で10数店舗を展開する居酒屋チェーンで2004年のことです。オーナーが病気になり後継者がいないということで話が持ち込まれました。この当時は私自身もM&Aのことは何も知りませんでした。

第2回で触れた株式譲渡と事業譲渡の違いも知りませんし、デューデリジェンス(買収監査)に至っては税務申告書3期分を30分程度めくって終わりでした。ここから怒涛のM&Aが始まります。

2005年7月、ジャスダック上場の平禄寿司(現ジー・テイスト)を買収するとともに、翌8月には経営陣の不祥事で破産した「とりあえず吾平」のゼクー(当時、マザーズ上場)を平禄寿司の傘下に加えました。同年4月には「長崎ちゃんめん」のパオ(当時、東証二部上場)、同年10月には江戸沢(当時、東証二部上場)、そして2007年4月には焼肉屋さかい(当時、ジャスダック上場)を次々と買収しました。

因みに、現在は全てジー・テイストに合併しています。

飲食の事業再生パターン

1.本部の適正化

現場スタッフが稼ぐ利益以上に現場で働かない部門のコストが嵩んでいる場合があります。数店舗しかないのに立派なオフィスがあるとか、総務・人事・労務・経理等の管理部門に社員が多く在籍、開発部門は新規出店のためにある部門のはずが撤退処理で忙殺されていることは良くあることです。

フランチャイズ本部に至っては新規加盟対応よりもクレーム処理や加盟解約対応に追われるようになったら末期です。

2.FL値の改善

F値はフードコストで食材原価、L値はレーバーコストで人件費です。飲食店では一般的にFL値の合計は60%が基準です。60%の内訳は業態によって異なりますが、適正値にするかどうかはその会社の管理力に寄ります。もちろん、メニュー改訂や運営マニュアルの見直しなど複合的な対処が伴います。

3.リニューアル

FL値の改善はあくまでもコストコントロールです。

売上が一定以上に下がると適正値を維持することどんなに管理力が高くても困難です。業態そのものが陳腐化していない場合は改装することで売上向上を図ります。この際にレイアウトを見直すことで導線をスムーズにしてL値が下がる効果もあります。

4.業態変更

業態が陳腐化するとリニューアルでは改善を図ることができません。
業態変更することで新店オープン効果があります。新店は新たなお客様が見込まれるとともにスタッフ採用にも有効です。自社に別業態がないと新たに業態を開発する必要があります。ジーコムは50以上の業態を持っていました。

5.直営店をフランチャイズ化

直営店をフランチャイズ化することで店舗売却益や加盟金等の一時金を得ることができます。
さらに継続的なロイヤリティも入るため、フランチャイズ本部としては経営的なリスクを大幅にヘッジすることができます。ただし、常日頃から良好なフランチャイジーとの関係を構築していることが必須であることは言うまでもありません。

6.撤退

最後は撤退、損切りです。直営店の赤字の垂れ流しは最大の損失です。黒字化が見込まれない店舗は速やかに撤退するしかありません。もちろん、撤退の際に居抜き譲渡で譲渡金を得ることがベターです。
物件の原状回復工事費を免れ、保証金が返還されることは有り難いことです。

改善事例 紹介

平禄寿司

回転寿司の元祖ですが当時は100円寿司の影響により低価格競争の中で競争力を失っていました。そこで、メニューを見直し、敢えて客単価を上げることで収益向上を図りました。

つまり、

2の「FL値の改善」です。

とりあえず吾平

運営会社のゼクーは、一部の幹部の不祥事により破綻しました。
現場の店舗はFC店含め、ほとんどの店舗が利益を出していましたが、FCオーナーの中には、本部経由で購入する食材やロイヤリティ(当時6%)の高さに不満が鬱積していました。

そこで、食材購入の流れを透明化するとともにロイヤリティは3.5%に下げることで、ほとんどのFCオーナーはジーコム傘下のFCになることを承諾して頂けました。

これは、事業再生パターン1で紹介した「本部の適正化」と、2の「FCの改善」です。

長崎ちゃんめん

当時の運営本部は山口県宇部市に本社があり長年地元業者との関係を大切にしてきました。
そのため、食材原価が相場よりも高くなるという弊害があり、仕入業者を大幅に見直しました。また、店舗のメンテナンスが行き届いていない部分があり、リニューアルが必要な店舗が多数ありました。事業再生パターン2の「FL値の改善」と3の「リニューアル」になります。

ちゃんこ江戸沢

改善が非常に大変だった事例です。
江戸沢は、静岡市を本店所在地として、個室でちゃんこ鍋料理を頂くというスタイルで一世を風靡しました。
しかし鍋料理は季節変動、つまりトップシーズンの冬とそれ以外の季節で売上が大きく変わり、スタッフの確保・管理が非常に難しい業態です。そして当時個室創作居酒屋のブームにも押され、業績は右肩下がり、大株主も創業家からファンドに移っていました。

江戸沢の問題は、FL値はほぼ完璧でしたが、シフト管理ができていない事。つまり、お客様が多く見込まれる時にはスタッフを厚くして、見込まれない時には薄くする調整ができておらず、売上の機会ロスが多発していました。ファンドは表面的な数値管理しかできていなかったということです。

さらに、江戸沢業態として陳腐化が進んでいるに上に、ドミナント出店で狭いエリアに複数店舗があるという状態でした。そこで、全店を回り、リニューアル、業態変更、撤退など事業仕分けならず「店舗仕分け」をしました。業態変更は主に「とりあえず吾平」や「小樽食堂」でした。江戸沢には興味なくても、それらには加盟を希望するFCオーナーが複数あり、リスクヘッジができました。

江戸沢の改善は、事業再生パターン1から6まで全てを駆使せざるを得ないものでした。

大手ファンドの企業買収との違い

因みに、当時は大手ファンドが積極的に飲食企業を買収していました。

焼肉屋さかいもそうです。ただ、大手ファンドが飲食企業を再生させ、バリューアップして売却益を得た例はほとんどなく、むしろ、買収した時よりも業態、現場を悪くして損切りの例がほとんどだったと思います。

焼肉屋さかいも創業家から継承したファンドが再生できずにいた時に買収しました。そして、焼肉屋さかいは事業再生パターン1の「本部の適正化」、2の「FL値の改善」、3の「リニューアル」により収益向上となりました。

本部の適正化については、決してリストラで人員を削減するのではなく、グループ内含めて再配置することで実現しました。

このように、当時のジーコムは買収した会社(事業)のほとんどを再生させ、バリューアップしました。ファンドとの大きな違いは、自らが数多くの業態を開発し、飲食店を経営し、さらにフランチャイズ本部でもある事業会社だったことです。

最後に

これらの事業再生及び業績改善はもちろん私一人がやったことではなく、当時のオーナーでありグループトップの稲吉正樹氏のリーダーシップの下、グループ幹部及び社員が文字通り一丸となって取り組んだ結果であることを強く申し添えさせて頂きます。

何はともあれ、四回に渡りご拝読いただき誠にありがとうございました。少しでも皆様のビジネス判断の一助になったのであればこの上ない幸甚です。

株式会社フォーナレッジ 代表取締役 加藤 綱義

愛知県蒲郡市出身。早稲田大学教育学部英語英文学科卒。1992年日本電信電話株式会社に入社、主に広報、営業部門に従事。2002年㈱ジー・コミュニケーションに転職。主に、常務取締役としてフランチャイズ加盟及び物件開発、経営企画、管理、外食、公開準備等を管轄。M&Aでは、「とりあえず吾平」「焼肉屋さかい」「英会話NOVA」含め、30件近い企業・事業の買収を担当。2009年に傘下の㈱さかい(ジャスダック、現ジー・テイスト)代表取締役就任。2011年11月に独立し、フォーナレッジ創業。2013年1月に株式会社化。創業以来21件[2015年12月現在]のM&Aに携わる。