経営コンサルタント/兵法経営士濱本 克哉
2015-04-15 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
経営コンサルタント/兵法経営士 濱本 克哉

「孫子の兵法」を経営に活かす

 このコラムのポイント

このコラムは起業家を対象としたコンサルタントの活動をしている濱本克哉氏が、なぜ孫子の兵法をもとにしたアドバイスを始めるようになったのか。また、これから独立起業を志す方にぴったりな孫子の言葉をここでは紹介しています。

フランチャイズWEBリポート編集部


私が孫子の兵法を仕事に活かすようになった理由

はじめまして。経営コンサルタントの濱本です。私は自分のことを「兵法経営士」と名乗っています。

個人で開業してコンサルタントの仕事を始めたとき、コンサルタントのノウハウのほとんどが西洋のものであることに違和感を抱きました。

ドラッカーを始めとして、コトラー、デミング、ポーター、レビットなど、経営に関する理論の提唱者で有名な人は西洋人ばかり。「日本の企業は世界的に評価されているのに、どうして日本や東洋の教えは出てこないのだろう」と疑問をもったのです。

調べてみると、日本にも近江商人の「三方よし」の教えや、「正直」であることを重視した石田梅岩の思想など、現代の企業経営に役立つ考え方があることも分かりました。

しかし、これらはまだ日本人が主に国内で商売をしていた頃のもの。インターネットが普及し、国際的な競争が激化している現代において通用する教えは何かと考えていた1999年、「孫子の兵法」に出会ったのです。「これだ!」と思った私は、早速「孫子の兵法」の通信講座に申し込みました。

最初は漢和辞典を手放せませんでした。難しい漢字を辞書で調べながら、かたつむりのようにのろまな歩みで「孫子」を学んでいったのです。苦しいばかり。

しかし、少しずつ分かるようになってくると喜びが湧くようになりました。経営コンサルタントとして行っていた経営セミナーでその断片を述べると、「まさか孫子の話が聞けるとは思わなかった」と驚かれる方もいましたが、そうやって徐々に「孫子」を仕事に活かすようになっていったのです。

今は「孫子の経営」に関する経営セミナーを開いたり、個別に経営指導を行ったり、金融機関などに依頼されて経営雑誌に執筆したりしていますが、9割以上が「孫子の兵法」と関連した仕事となっています。

独立・起業と「孫子」

これから独立される方にピッタリの「孫子」の言葉があります。

それは「勝利する軍は、開戦前にまず計算上、高確率で勝利を得て、それから戦おうとするが、敗北する軍は、ずさんな計画で戦争を始めてから、行き当たりばったりで勝利を求める」というもの。

独立前は分からないことだらけです。「考えている商売をするには何か資格が必要なのか」「役所にどんな書類を出せばよいのか」「経理はどうやるのか」など。

ただ、これらについては専門家に尋ねたり、本やインターネットで調べたりすれば分かることです。問題は、専門家も分からないこと。

それは、「果たして売れるのか、顧客は獲得できるのか」ということです。

今、個人独立者の5年後の存続率は25%、つまり4人中3人が5年後には廃業するといわれていますが、こうなった理由は「売れなかった」ということに尽きます。そこで私は独立される方に、「独立前に成功のシナリオを描いてしまいましょう」と申し上げています。

この言葉が響くのは年配の方です。60歳を過ぎて起業しようという方々は「絶対に失敗できない」という強い思いがあります。ですから、計画の細部まで作り上げることを厭いません。経営コンサルタントとしてもご指導のしがいがあります。

逆に、若い方には「ともかくやってみよう」という方が少なくありません。そこには「失敗してもやり直せばいい」という安易な気持ちがあるように思います。経営に行き詰まった状態というのがどんなに苦しいか知らないからこそ無謀なチャレンジができるわけですが、その結果が5年後の存続率25%という結果につながっているのです。

日本の開業率は5%前後で、アメリカの10%前後に比べてかなり低いようです。これは日本人がリスクを恐れる国民であることも影響しているでしょう。そんな中、あえてリスクをおかそうとしているあなたは貴重な存在です。そんな貴重な方だからこそ失敗して欲しくないのです。ぜひ「危険な道を安全に進む」ようにしていただきたいと思います。

※「開業率」:当該年度の雇用保険新規適用事業所数÷前年度の適用事業所数。(厚生労働省)

これから起業を考える方へ

兵法では、「戦略は大胆に、戦術は細心に」が鉄則です。

「独立する!」と大胆に決めるのはよいことです。しかし、実際の進め方は細心の注意を払ってやっていただきたいと思います。

では、何に注意を払うのかといえば、「本当に売り手の思いのこもった商品なのか」「売り手の思いは伝わっているのか」という点です。これが最大のポイントなのです。いろいろと小細工を弄するよりも、この点についてじっくりとご自分を掘り下げていただきたいと思います。

当連載では、「孫子の兵法」的思考を底にすえながら、起業家のあなたに少しでもヒントになるようなメッセージを発信していければと考えています。

次回は「起業家を成功に導く5大要素」について解説します。
成功へ向けて一歩一歩、進んでいきましょう!

経営コンサルタント/兵法経営士 濱本 克哉

ハマモト経営代表。兵法経営士。関西学院大学文学部卒業、大手小売業、学習塾、出版社、経営コンサルタント会社を経て経営コンサルタントとして1997年独立。地方銀行のビジネスセミナー講師、経営者団体での講演実績多数。個別企業のコンサルティングは通算約170社。メールマガジン社長が経営に活かす「孫子の兵法」は読者数17000人。著書「孫子の兵法 社長が経営に活かす70の実務と戦略」(日本経営合理化協会)。