フランチャイズ研究会 中小企業診断士楊典子
2015-02-25 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
フランチャイズ研究会 中小企業診断士 楊典子

私が女性起業の支援活動を始めた理由

 このコラムのポイント

「転職サイトでは、女性向けの転職などのコンテンツがあるのに、フランチャイズだとなぜないのだろう・・」そんな編集部の思いから始まった連載企画の第一弾です。この連載を担当するのは、中小企業診断士の楊典子氏。彼女が『女性のための起業支援』を始めた経緯についてここでは触れられています。

フランチャイズWEBリポート編集部


こんにちは、女性のローリスク起業を支援する、中小企業診断士の楊典子です。
『フランチャイズで叶える女性起業』をテーマに、コラムを担当させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

今回は自己紹介となぜ女性起業の支援を始めたのかをお話ししたいと思います。

楊典子

コンサルティング会社設立も雑務に時間を費やす日々

私は大学を卒業してからずっと、大手・中堅の製造業を中心にコンサルティングに関わる仕事を行ってきました。
得意分野は「業務の流れをミスが少なく、効率的なものに変えること」
これを柱に仕事をしていく中で、さまざまなご縁や機会をいただきながら、フランチャイズ本部の支援や女性起業支援という専門領域がひろがり、現在に至ります。

自分でコンサルティング会社を立ち上げたのは2009年。
この業界が長いとはいえ、自分の知識はあくまで事業を立ち上げて、運営されている状態が前提のものばかり。事業をうまく回していく知識はあれども、立上げの知識はほとんどない状態でした。

屋号をどうするか、個人事業主でやるか法人化するか、どんな手続きが必要なのか、オフィスはどうするか、社会保険はどうなるか、税金はどうなるか…。

一番大切な「だれに、なにを、どうするか」を決める以前に、こういった事務的な手続きについての情報収集で数ヶ月が過ぎる状態。
会社を辞めて独立開業してからも半年間は、本業ではなくこういったもろもろの雑務に時間を費やしている日々でした。

女性起業家と知り合って気づいたのは、特有の悩みがあること

ゼロからのスタートということもあって、人脈づくりのために異業種交流会などに参加するなかで、独立開業している女性と出会う機会が増えていきました。

お会いしたのはサロン経営や士業、講師業などさまざまな分野で活躍されている方達ですが、開業に際してどんな苦労をしたか、どんな失敗をしたかという話題になると、どれも共感できることばかり。みんな同じようなところで迷い、情報収集に苦労し、同じような落とし穴(失敗経験)に落ちていました。

「先に知っておけば、考えておけば、起業にあたって避けられた苦労は沢山ある」
「起業にあたって悩む、苦労するポイントは男性と女性では違う」

自分で起業を経験し、周りの女性起業家と話す中で気づいたのはこの2点でした。
男性が起業をする際に考えるのは、「新しい事業のこと」がほとんどです。
このノウハウについては、創業塾や起業本は巷に沢山あふれています。

しかし女性の場合はどうでしょう。
事業を考えるにあたり、夫やパートナーとの関係、結婚や出産、子供のこと、家族の仕事や健康状態、家計そのもの、周囲との人間関係、現在の雇用環境など、これらを踏まえて考えることが必要となるケースがほとんどです。
実際、このバランスを考慮せずに事業を計画すると、「忙しくなりすぎて家庭に問題が起きた」といった問題に直面し、結果、「商売は成功したが、人生の幸福度は下がった」という事態が生じたりもします。

しかしながら、このような要素にまで踏み込んで起業ノウハウを体系的に伝えてくれる起業塾や起業本はみあたらないという状態だったのです。

女性の価値観を大切にするキャリア35との出会い

自分が経験したこと、知っていることを伝える方法はないかな、と漠然と考えていたとき。

行政書士の尾久陽子氏(現キャリア35代表理事)から「女性の起業支援を始めたいのだけれど、一緒に検討しませんか?」と声を掛けていただき、「渡りに船」と飛び乗ったのが、私の女性起業支援の一歩でした。

私や尾久氏の所属するキャリア35では
「住んでいる場所、家族の状況といった環境にとらわれず、自分の価値観を大切にしつつ自立する自由を分かち合いたい」

という思いをもって、「単なる事業の成功ではなく、どんな生き方をしたいのかにより焦点を当てて支援し、場合によっては起業することを引き留める」ことをモットーに活動しています。

女性の活躍する場が広がったとはいえ、勤労世代(20~64歳)の単身で暮らす女性の3人に1人が「貧困」であるというデータが出ています。また、DV(ドメスティックバイオレンス)などを理由に離婚を考えても、自立が困難という理由で実行に移せない女性も多いという事実。(同データで母子世帯の57%が貧困という結果でした)※

※国立社会保障・人口問題研究所の分析による
〈相対的貧困率〉世帯所得を基に、国民一人ひとりの可処分所得を算出し、それを順番に並べて、真ん中の人の所得の半分(2007年調査では114万円)に満たない人の割合をいう。2009年の日本全体の貧困率は16%。経済協力開発機構(OECD)も同様の指標を使っている。

単身者はもちろんのこと、結婚していても、経済的に自立できるかどうかが人生の数ある選択肢に大きく影響を与えていることは言うまでもありません。
自立するための一つの選択肢として、「転職」「再就職」と同じように「起業」も加えて検討してみませんか、というのが私たちのメッセージです。

飲食店経営で苦労してきた母の姿を見て中小企業診断士に

なぜ私が、女性の起業支援に力が入るのか。これについて最近気づいたことがあります。
それは「私が経営コンサルタントを志す原点だから」という点です。

私の母は田舎で小さな飲食店を切り盛りしながら、女手一つで子供4人を育て上げたいわば肝っ玉母さんです。が…、経営者としては正直ダメダメ。
いわゆる勘・経験・度胸だけで商売を進めるタイプの典型でした。
無計画な仕入と大量の廃棄品、お客によって値段を変えてしまうような対応、行き届かない店の手入れ、場当たり的な資金繰り。
小学生5年生の頃からだったと思います。子供心に「うちの店、潰れちゃうんじゃないかしら」と本気で心配になり、店の掃除を引き受け、黒板に今日のお勧め品を書いてみたり、ほとんど記帳されていない伝票をひもといて税務署への申告書を作成したりということを始めました。

そんな中で、常連さんに教えてもらったのが
「こういうコトする仕事があるよ。たしか中小企業診断士っていうんだよ。」
ということ。そして私は小学校の卒業文集の「将来の夢」によくわからないまま「中小企業診断士」と書いていました。

思いはある。行動力もある。けれど、学ぶ機会もなく、アドバイスしてくれる人も周りにいないために、余計な苦労を背負い込み、遠回りばかりしていた母の姿。
そんな苦労をする女性を、微力ながらひとりでも減らしたいと願っています。

これから起業を考える女性へ

仕事で分岐点に立ったとき、起業という選択肢も含めて検討しませんか?
自分が望む生き方を達成することを目的に起業を手段として、事業を選択・計画しませんか?
そして起業をするなら、避けられる苦労は避けて通りませんか?

当連載では、このようなメッセージを柱に
『女性起業×フランチャイズ』の視点でコラムを書かせていただきます。

次回は「あなたはどのタイプ?『女性のための起業タイプ診断』」です。
どうぞお楽しみに!

フランチャイズ研究会 中小企業診断士 楊典子

福島県出身、立教大学経済学部経済学科卒。新卒から一貫して経営コンサルティング業務に従事し、外資系コンサルティングファーム等を経て独立。五葉コンサルティング株式会社代表取締役。世界的企業から個人の創業まで、多数の支援実績を持つ。製造業の業務改革や各種FC本部構築などに関わる。主な著書にフランチャイズ入門(同友館)、フランチャイズ本部構築ガイブック(同友館)、好きを仕事に!―私らしいローリスク起業(BKC出版)など。