合同会社FMDIフードビジネス多店舗展開研究所 代表坂本 和彦
2016-01-10 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
合同会社FMDIフードビジネス多店舗展開研究所 代表 坂本 和彦

「日本マクドナルド株売却」がハンバーガー業界に与える影響とは

 このコラムのポイント

2015年末にメディアを騒がせた「日本マクドナルド株売却検討」のニュース。なぜマクドナルドは失速したのか?、株の買い手は現れるのか?、日本のハンバーガー業界にどのような影響をもたらすのか?がわかるコラムです。

フランチャイズWEBリポート編集部


株売却検討のマクドナルドとそこをねらう海外ハンバーガーブランド

2015年を振り返るとマクドナルドの異物混入で始まり、マクドナルドの株売却騒ぎで暮れました。

ガリバー(寡占市場において1社の市場シェアが圧倒的に高い状態)の動きは少なからず業界にも影響を与えます。

2014年の7月に発生した中国産の鶏肉の消費期限問題に端を発して、年明けの異物混入騒ぎで売り上げにして20%以上のダウンは1年たっても抜本的な回復には至っていないようです。
年間で500億円から600億円が消えたわけですから。

一つのナショナルブランドがなくなったのと一緒です。そんな中、海外のブランドがどんどん日本を目指しています。

「マクドナルドの弱体化」をねらう海外ブランドが日本パートナー探しに必死

最近でも話題になりました、タコベル、ハンバーガーのシェイク・シャック、今年はカールスジュニアも出店します。そのほかにも、多くの海外ブランドの外食が日本に上陸、または進出を狙っています。

私の所へも、日本に誘致している業者から日本のパートナー探しの問い合わせが来るほどです。まだいっぱい予備軍は来ているようです、特に外食は多いようです。

その一因に、マクドナルドの弱体化があるのではないかとも言われています。マクドナルドの弱点をしっかりと突いたブランドが多いのもうなずけます。

商品に特色のある、本当に魅力的な商品を持っていることです。全世界的にマクドナルドの勢いは弱くなっていると言えます。他のバーガーチェーンにとってはチャンスです。再拡大を狙っています。

彼らははっきりと「2020年の東京オリンピックをターゲットにしています」と言っています。
もちろんその後も含めて、日本のマーケットへの魅力を感じているからであることは間違いないところです。

海外ブランドが日本で成功するための3つのポイント

今、パートナー探しに奔走しているブランドは早くても来年以降の進出となるでしょう。2018年から2019年には保々出揃った形になるでしょう。日本に進出する外食ブランドにも死角が見え隠れします。

そんな中、最も成功を左右する要素は日本の「パートナー」探しでしょう。
ただ、日本側パートナーにとって、魅力的なコンセプトを持つブランドであっても、大きな危険性をはらんだ船出となってしまうようです。

中には、日本側パートナーが日本国内での飲食での経験の少なさからかなり強引に店舗を作り、展開を目指している話をもれ聞こえます。
首を傾げたくなるようなケースもあるようです。当然フランチャイズ展開となれば修正をしていくとは思いますが。

海外ブランドで日本に進出したい企業が勝ち残る秘訣を3つにまとめます。

海外ブランドが日本で成功するための3つのポイント
1.いかに優秀なパートナーに巡り会えるか
2.少なくとも国内での外食経営の経験があり、日本のマーケットや労働環境も含めて理解しているパートナーであること
3.何よりも真摯で誠実なこと

海外ブランドで日本進出をねらう企業は、素晴らしいパートナーとタッグを組んで日本市場で活躍してほしいものです。

日本マクドナルド失敗の原因3つ

話を戻しますが、それではマクドナルドの弱体化の要因は何なんでしょうか。要因を知ることは、外食の経営者にとって参考になることの多い事例も多いかと思われます。

よく言われていますのが、ビジネスモデルの崩壊、今までの方法で行き詰っているわけですからそう言えるのでしょう。

創業者、藤田時代(藤田田氏の時代のこと)の最後に業績悪化の原因を作ったと言われる「低価格路線」、「小型店舗展開」。
このことがマクドナルドのブランドをチープなものに、安売りのファーストフード店にしてしまったと言われています。

最強のマーケティングとシステム、ワールドワイドでの原材料調達力。
これらをもってしてもお客様を振り向かせるのは難しかったわけですが、それでもマクドナルドには優秀な人財がいました。だから挽回を果たした経験もあるのです。

原因1.優秀な人材の辞職

しかし、その優秀な人財を放出してしまったことが一つ目の大きな要因です。
実は、2007年から2010年の間で1500名の人財が会社を離れています。「藤田色の一掃」とも言われます。
「赤いバス」は用意しました、乗るか乗らないかと判断を突きつけたのはそんな中での出来事です。

日本一の給料を出すと豪語し、優秀な人財を多く採用した藤田社長時代の優秀な人財によってその高度なオペレーションは支えられていたのでしょう。その人財が少なくなった時に起こるべくして起こったのではと言わしめることです。

原因2.日本式経営(藤田田時代)からアメリカ式経営(原田泳幸時代)への変化

当時、藤田社長は日本へ導入した時に「和魂洋才」ということを盛んに言っています。またアメリカのレイ・クロックも日本的な経営に一定の評価をし許容しています。 従業員を大事にし藤田社長の価値観を築き上げています。

その考えを真っ向から覆したのは、原田泳幸社長です。要は「洋魂洋才」もちろんアメリカ側から日本的な経営をアメリカ主導の経営に切り替える指示が出ていたのでしょう。ここからが弱体化二つ目の要因につながります。

2004年に就任した原田社長は前任のドナヒュー氏及びアメリカ本社の意向を受けて、藤田社長時代の日本式のローカライズの方針、日本のことは日本で決めるという方針を大きく転換したすなわちアメリカ式経営への変換であります。

その時2007年にアメリカから赴任したディブ・ホフマン氏と原田社長のタッグでアメリカ式経営への転換と不採算閉店、フランチャイズ化の促進を図ったわけです。

そして今回の株売却にあたり「日本マクドナルドは、資本関係を見直すと発言。「脱米国流→日本主導健康志向限定メニュー独自施策で回復狙う」とのことです。

どうしたいのか?どこへ行こうとしているのか?これを迷走と言わず何と言うのでしょうか。

そして、フランチャイズビジネス。フランチャイズ本部の指導力が失われた時そのチェーンは崩壊します。

原因3.「顧客」、「従業員」を意識した施策の変更・決定をしているように見えない

三つ目はこう言った様々な施策の変更・決定に「お客様」「従業員」の存在が見えていないということです。
今のマクドナルド経営陣には「お客様」不在で施策を決め、自分たちの理屈でオペレーションを変えてきました。

提供時間の短縮という理由で「テーブルメニュー」をなくし(メニューを各テーブルに置かないこと)、店舗イメージをカフェ風に変えることで、子供連れの家族客の足が遠のく原因にもつながりました。

このことをお客様は見ているんです。お客様はそのことに気がついているんです。

日本マクドナルド株の買い手はフランチャイズ募集同様うまく進まないと予想

コラムの冒頭でも申し上げた株売却。これも思ったようには進まないのではないかと言われています。
持ち株の約半分、総額で1000億の引き受け手が現れるのか・・。

現在の株価は業績に連動しないカタチで形成されています。しかもマクドナルドは個人株主が多く、株主優待に魅力を感じて保有している―そんな銘柄なのです。

実力よりも高い買い物であることと、現在の収益状況、この先の業績見通しは非常に厳しいことを考えるとマクドナルドというブランドで買い手が簡単に見つかるとは思えません

フランチャイズ募集をはじめた時も、マクドナルドというブランドで手をあげるところは多いだろうと考えたが、そんなに甘くなかったのと一緒です。

日本マクドナルド再建はこの1年で決まる

今まさに。日本マクドナルドは、業績回復のために株売売却も含めた施策によって会社再建をねらっています―海外ブランドの日本進出もこれに一役買っているのではないでしょうか。

そして、国内各社も今がチャンスと拡大に舵を切るところが出てきています。マクドナルドの撤退物件を果敢に取得し展開を図ろうとしているチェーンも現れています。 ただし懸念は、マクドナルド以上の売上が見込めるかどうかです。

高額家賃で採算割れで撤退する首都圏のマクドナルドの跡地。採算に乗れるブランドがあるとも思えませんが、立地としては申し分無いものでしょう。なので跡地をねらうブランドが出てくるわけです。

冷静に状況を分析し、マクドナルドを教訓に。そして、海外の急拡大するブランドの本質を見極めて自社の事業拡大を目指すことが経営者には求められます。ハンバーガー業界においても市場は大きく、ポテンシャルもあるので再活性化の余地は確実にあります。

マクドナルドの会社再建の成否はこの一年にかかっていると言ってもいいでしょう。その成否が外食、特に海外の新規参入ブランドを含めてハンバーガー市場再活性化のキーになることは間違いなさそうです

2016年は、2020年以降(すなわち東京オリンピック以降)の外食の枠組みを形作る重要な一歩の年になると言えるのではないでしょうか。

合同会社FMDIフードビジネス多店舗展開研究所 代表 坂本 和彦

フードビジネス勃興期の1980年より外食大手チェーン企業の日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社で30年以上に渡りフードビジネス、フランチャイズビジネスの最先端で数々の経験を積む。その後SVとして多店舗展開のための多くの重要なポイントを習得し、フランチャイズシステムを学ぶ。約7年間で店舗開発部門の責任者、執行役員として店舗開発戦略の立案と実行に携わりフードビジネスの事業拡大の基本である多店舗展開の重要性と課題を体験。2015年3月、合同会社FMDIフードビジネス多店舗展開研究所を設立。経営コンサルタントとして活躍。