株式会社エムズ 代表取締役的羽 一郎
2016-12-13 専門家が語る。フランチャイズ・独立開業コラム
株式会社エムズ 代表取締役 的羽 一郎

飲食業で開業!はじめる前に見通しておくべき「出口戦略」を考える

 このコラムのポイント

出口戦略とは、元々は軍事用語で「悪況において、できるだけ損害を小さくして撤退するための戦略」を指す言葉。後に経済用語に取り入れられた時、少しそのニュアンスを変え「撤退時の利益を最大化するための戦略」となった言葉です。このコラムでは、さらにその意味を発展させ、これから独立開業を目指す方に向けて、将来自分が立ち上げた事業を離れるまでの計画をすることの重要性を説きます。

フランチャイズWEBリポート編集部


サラリーマンに定年退職があるように、飲食業で独立した方にも、いつか事業から身を引く時がやってきます。サラリーマンは、定年まで勤めあげれば、最後に退職金がもらえて、老後資金の一部にすることがあります。

飲食業で独立起業して、辞める場合はいくつかのケースが考えられます。

最も困るのは、売り上げ不振でやむなく撤退する場合です。うまく経営していた場合でも、年齢を重ねることで次の世代に店を譲ったり、後継者が見つからず廃業する場合があります。

出口戦略次第で、大金を失ったり、うまく売却して予期せぬ退職金をもらうこともあります。

今回は、飲食店の出口戦略について考えてみます。

起業時に必要な投資と廃業の理由

飲食店で独立起業する場合、通常、多額の投資を必要とします。

店舗を借りる場合の保証金や、内装費、空調などの設備費、厨房機器や食器や什器備品などは、店が開店する前に必要な投資です。

全額自己資金で始める人は少なく、多くの場合、自己資金と金融機関からの借り入れで資金調達します。

これから商売を始める人は、前向きな思考をする人が多く、成功のイメージや成功するための方策にエネルギーを費やしています。

多額の投資を必要とするにもかかわらず、開店前から最後の撤退のことを考えている人は少ないようです。 

商売をやめる理由は、売り上げ不振による撤退や、高齢や病気で事業が継続できなくなる、事業がうまくいっているにも関わらず後継者が見つからないなど様々です。

上手な辞め方を考える

店をたたむ 〜店舗を借りる側・貸す側の考え方の違い〜

店を閉店する場合、物件を借りているのであれば、大抵の場合、内装や設備を撤去して、スケルトン状態にして地主に返す必要があります。

テナントと地主さんが賃貸借契約を結ぶとき、契約内容でこだわる箇所に大きな違いがあります。

テナントは、賃料と賃料更新条件に一番こだわります。次に、保証金です。

毎月の経営や開店当初の初期費用に関係するので当然と言えます。

希望の賃料に折り合ってくれるのなら、他は妥協するというテナントも多くいます。

地主さんは少し違います。賃料と保証金は当然こだわりますが、契約解除するための禁止事項や契約終了時の物件の返還条件などに非常にこだわります。

つまり、テナントは、これからの商売に目が向いているのに対し、地主さんは、いつか来る契約終了時のことを、最初から強く意識しているのです。

これが、出口戦略に対する意識の違いです。

既存の店舗を活かす

多額の投資をするというのは、マンションや戸建て住宅を購入するのも同じです。

購入したものの、転勤や家族構成の変化などで、住宅を転売することはよくあります。しかし、中古住宅を転売する場合、内装や水道やガスなどの設備を撤去することはあまりありません。多くの場合、移動可能なものを取り除いて、次の人が住宅としてすぐに住める状態で引き渡します。

マンションや車のように、中古の流通市場が形成されていると、容易に転売することができます。

住宅や車に比べて、店舗の転売は難しいです。

難しい理由の一つ目は、住宅や車に比べて流通市場がそれほど形成されていないことがあげられます。

二つ目の理由は、飲食店といっても種類が多く、売り手の希望と買い手の希望がなかなか折り合わないのです。

例えば、ラーメン屋をやろうとしている人は、ビルの上層階のバーのような店は敬遠します。業種・業態に加えて店舗面積も様々です。

三つ目は、内装や設備の状態です。

普通の住宅に比べて、飲食店は設備の傷みや汚れは激しくなります。折角、後継テナントが見つかっても、内装・設備を新しくして開業することはよくあるのです。

この場合、内装・設備の撤去は自分でする必要があります。

うまく転売する方法

では、どうすればうまく転売できるのでしょうか。

通常、店舗を転売する場合、査定価格を算出する方法は2つあります。

一つは、資産価値から計算します。内装や設備、厨房機器の状態が、綺麗ですぐにでも営業可能な場合は、査定価格も高くなります。

二つ目は、利益から見た価格です。立地が良かったり、商品内容がよく、常連客が付いていて、安定した売り上げと利益が続いている場合など、内装や設備が古くなっていても高い査定価格が付くことがあります。

資産価値があるから、利益が出ているからといっても、買い手を見つけるのは簡単な話ではありません。

新規に商売を始める人を探すのは容易ではありません。不動産屋などに相談すると、同じ業種ですでに店舗展開している人に情報を流したりしています。

上手く買い手が見つかっても、地主さんの了解が取れないと転売することはできません。そのため、日ごろから地主さんとは良好な関係を築いておく必要があります。

フランチャイズに加盟する・店舗を譲る

自分で後継テナントを見つけるのが面倒だと考えている人は、フランチャイズに加盟するのも選択肢の一つです。

フランチャイズの本部は、加盟希望者からの相談を常に受けています。もし利益が出ている店なら、本部は、加盟希望者に紹介してくれます。

この場合、辞めたい人は店舗を譲ることができますし、新しく加盟する人は、実績のある店舗で安心して商売を始められます。

地主さんも、実績のある業種で継続して商売ができることで、安心です。
まさに三方良しです。

理想の経営を実現するために

上に挙げたいずれの方法を採る場合でも、開業する前に、その事業の終始(経営者自身の引退後の安泰・継続すべき事業か否か)をよく考えておく必要があります。

その中で、廃業や事業継承の時期をいつと考え、それをスムーズにするには投資回収をいつまでに終わらせておくことが理想なのか…。

「出口戦略」を考えておくことが、事業の成功にとって如何に重要な意味を持つのかについて、このコラムで感じていただけたなら幸いです。

 

株式会社エムズ 代表取締役 的羽 一郎

大手外食産業で17年間勤務。沖縄から仙台まで約280店舗の直営店・フランチャイズ店の新規開業に従事。出店戦略の策定から立地調査、新業態開発、不振店の再生、フランチャイズ・オーナーへの経営指導、社員活性化教育など多くのスキルを身に付ける。 2003年に経営コンサルタントとして独立後は、外食産業やサービス業の経営指導を行う傍ら、商業施設の企画、フランチャイズのパッケージ構築、講演等幅広い分野で活躍している。